火星の地表で探査活動を行っている火星探査機「インサイト」。先日、インサイトに搭載されている観測装置の一つがトラブルに見舞われたことをお伝えしましたが、トラブル対策として実施された作戦結果の第一報が報じられました。
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■進めずにいたセンサーが2cmだけ前進!こちらはNASAのジェット推進研究所(JPL)が公開したアニメーション画像です。インサイトのロボットアームに装備されているスコップによって穴に押し付けられている筒状の装置が、左に回転しながらわずかに地中へ潜り込んでいく様子がわかります。
この装置は、インサイトに搭載されている熱流量計「HP3」(Heat Flow and Physical Properties Package、火星の地中から放出される熱を測定するための装置)のセンサー部分です。この深さ5mまで打ち込まれる予定のセンサーは、通称「モール」(the mole、もぐら)と呼ばれています。
モールを打ち込む作業は今年の2月28日にスタートしましたが、到達した深さはわずか35cmでした。モールは内蔵されているハンマーの打撃力によって少しずつ地中に潜っていく構造なのですが、打撃を加えたときにモールが跳ね返らないように、周囲の穴との間にある程度の摩擦が必要となります。
ところが、想定外に固い地層が地下の浅い場所に存在していたために穴が崩れず、モールと穴の間にすき間ができてしまい、打撃を行う際に必要な摩擦力が得られなくなってしまいました。摩擦が得られないのでハンマーをいくら叩いても穴の中でモールが弾んでしまい、これ以上深くまで打ち込めなくなってしまったのです。
インサイトの運用チームはこのトラブルを乗り越えるために、ロボットアームのスコップでモールを穴に押し付ける「ピン留め」(pinning)作戦を発案しました。少しでも摩擦力が強まれば、地下の固い層をモールが突破できるかもしれないと考えたのです。
10月8日以降220回に渡る打撃を加えた結果、わずか2cmですが、ようやくモールは地下に向けての前進を再開しました。摩擦力を少しでも増そうと試みられたピン留め作戦の効果が現れたのです。
■「岩にぶつかった」という最悪の事態はまぬがれた?実は、モールが打ち込めなくなった原因として「地下に岩や石があるのではないか」という予想も立てられていました。もしも岩があった場合はモールでは突破できないので、HP3による観測は断念せざるを得ません。
しかし、ピン留め作戦後にたった2cmとはいえモールが地中に打ち込めたということは、「摩擦力が足りない」とする予想が正しかったことを意味します。運悪く岩の真上から打ち込み始めてしまっていた……この先そんな事態に直面しないとも言い切れませんが、ひとまず最悪の展開は回避されそうです。
ドイツ航空宇宙センター(DLR)のTilman Spohn氏によると、モールがまだ浅い場所にあるうちは、スコップで横から押したり穴を上から押し付けたりしてサポートすることもできるようです。ただ、現在はスコップの力も借りて摩擦力を得ているモールも、いずれは単独で地下5mを目指さねばなりません。これ以上の大きなトラブルなく観測に漕ぎ着けられることを願うばかりです。
Image: NASA/JPL-Caltech
Source: NASA
文/松村武宏