秋のイベントのひとつとして日本でも定着しつつある「ハロウィン」。今年のハロウィンを記念して「ハッブル」宇宙望遠鏡が撮影した1枚の画像が公開されたのですが、そこには2つの目を持った顔のようなものが写し出されています……。
■「顔」の正体は?欧州宇宙機関(ESA)が「幽霊のような顔」と表現するこの天体の正体は、「Arp-Madore 2026-424」(または短縮して「AM 2026-424」とも)と呼ばれる相互作用銀河。地球からはおよそ7億400万光年離れています。今年の6月19日に、ハッブル宇宙望遠鏡の「ACS(掃天観測用広視野カメラ)」によって撮影されました。
この相互作用銀河では2つの銀河が正面から衝突したとみられており、それぞれの銀河が持っていたはずの星やガス、塵でできた「円盤」は、衝突によって引き伸ばされてしまいました。中央付近に2つ見える明るい部分は、両銀河の中心部分にあった「バルジ」と呼ばれるもの。その周辺に広がる青い部分は、衝突で活性化した星形成活動によって形作られたリング状の構造です。
青い星々によって描き出されたリング構造とそれに対する2つのバルジ、各構造の配置があまりにも絶妙なこの銀河。NASAがプレスリリースの冒頭で「宇宙の奥深くを見つめるとき、何かに見つめ返されるとは思いもしない」と綴っているように、眺めているとバルジに見られているような気がしたり、青の濃淡が鼻筋や口元に見えてきたりするから不思議です。
■めずらしい衝突が生み出した偶然の産物銀河の衝突そのものはめずらしくない現象ですが、その多くは大きさが異なる銀河どうしの組み合わせです。たとえば私たちが住む天の川銀河も、およそ100億年前に自身より小さな銀河と衝突し、これを吸収してしまったとみられています。
いっぽう、顔のような姿のArp-Madore 2026-424の場合、目にあたるバルジの大きさがほとんど変わらないように見えることから、衝突した銀河どうしのサイズはほぼ同じだったと考えられています。
また、リング状の構造をもたらす銀河どうしの正面衝突もあまり多くはなく、2つの銀河が合体していく過程でリング構造も崩れてしまいます。ハッブルが捉えたこの「顔」は、宇宙のスケールからすればほんの短期間だけ観察できる、偶然の賜物なのです。
Image: NASA, ESA, J. Dalcanton, B.F. Williams, and M. Durbin (University of Washington)
Source: HUBBLE
文/松村武宏