「ハッブル」宇宙望遠鏡が撮影した1枚の画像。そこには、強烈な重力によって分身させられてしまったような、歪んだ遠くの銀河の姿が写り込んでいました。
■4本の円弧として観測される通称「サンバースト・アーク銀河」こちらはハッブル宇宙望遠鏡が撮影した、地球からおよそ46億光年先にある銀河団の画像。画像の中心付近を見ると、一部が途切れた円弧状の天体が写っているのがわかります。
この円弧は、銀河団よりもさらに遠く(地球からおよそ110億光年先)にある1つの銀河からの光が、銀河団の重力がもたらす「重力レンズ」現象によって進む向きを曲げられて、地球からは極端に歪んだ姿となって見えているものです。
歪んで見えている銀河の名前は正式には「PSZ1 G311.65-18.48」ですが、「サンバースト・アーク(Sunburst Arc)銀河」という呼び名が付けられています。サンバースト・アーク銀河と銀河団の姿は、ハッブル宇宙望遠鏡の「広視野カメラ3(WFC3)」と「掃天観測用高性能カメラ(ACS)」によって撮影されました。
実は、サンバースト・アーク銀河の像は重力レンズによって歪められているだけでなく、少なくとも12個の分身が生じています。円弧は全部で4つ確認されていますが、中心から見て上の円弧には6つ、右上の円弧には4つ、右と左下の円弧にはそれぞれ1つずつの像が含まれているとみられています。
重力レンズは銀河の姿を歪めたり増やしたりするだけではありません。サンバースト・アーク銀河は重力レンズによって10倍から30倍も明るく見えているうえに、地球から110億光年先と遠くにあるにもかかわらず、差し渡し520光年という(これだけ離れた銀河としては)異例の解像度で識別することが可能です。
詳しい観測の結果、この銀河は宇宙最初期の銀河の特徴を有していることが判明しました。地球から見てたまたま銀河団の向こう側にあったサンバースト・アーク銀河は、初期の宇宙を理解する上での重要な研究対象となっています。
Image: ESA/Hubble, NASA, Rivera-Thorsen et al.
Source: HUBBLE
文/松村武宏