古来より空に目を向けてきた人類。紀元前のメソポタミアで作成された粘土板に、記録に残る上では最古となるオーロラらしき記述が見つかったとする研究成果を、アメリカ天文学会が紹介していました。
■日本でも「赤気」として記録が残る低緯度オーロラらしき記述を発見太陽風によって引き起こされる地球のオーロラは、普段は南北両極に近い高緯度地域でのみ見ることができますが、太陽の活動が活発になると、日本のように普段よりも緯度が低い地域でも観測されることがあります。こうした低緯度オーロラは日本でも「赤気」として古くから知られており、近年でも北海道などで目撃されることがあります。
今回、三津間康幸氏(筑波大学)、早川尚志氏(大阪大学/ラザフォード・アップルトン研究所)らの研究チームは、アッシリアやバビロニアの文書から低緯度オーロラの可能性がある現象の記述を発見しました。紀元前680年~650年頃の占星術に関する記録が楔形文字で刻まれた粘土板から、赤く見える低緯度オーロラらしき現象に触れた言葉(赤光、赤雲、赤が空を覆う)が見つかったのです。
過去の太陽活動のレベルは、樹木の年輪に残された炭素の同位体(炭素14)の増減などを調べることで把握できます。従来の研究によって紀元前660年頃に太陽の活動レベルが高まった時期があったことが判明していましたが、これまでに確認された古いオーロラらしき現象の記録は紀元前567年のものまでしか知られていませんでした。
今回の研究成果は、従来知られていた記録よりも100年ほど前のメソポタミアでオーロラらしき現象が目撃されていたことを明らかにするとともに、紀元前660年頃に太陽活動の高まりがあった可能性を当時の観測記録から裏付けるものとなります。ただし、本当にオーロラに関する記述であると断定することはできないため、研究チームも「オーロラ様現象」とするに留めています。
なお、古い時代の太陽活動について調べることは、将来の危機に備えることにもつながります。強力な太陽フレアや、フレアにともなって大量のプラズマが放出される「コロナ質量放出(CME)」は、人類が築いてきた電力網や通信網に大きなダメージをもたらす可能性があります。こうした出来事がどれくらいの頻度で起こるのかを知る上で、古代の文献は貴重な情報源となるのです。
Image: Mitsuma et al.
Source: NOVA – 筑波大学
文/松村武宏