1054年におうし座で観測された超新星の残骸である「かに星雲」は、可視光線やX線だけでなく、より波長が短い電磁波の一種「ガンマ線」も放っています。今回、そのガンマ線がかに星雲のどこから放たれているのかを詳細に観測した研究の成果が発表されました。
■一点からではなく広い範囲からガンマ線が放たれていた1054年に観測された超新星爆発は、藤原定家の「明月記」をはじめ複数の古文書に記録が残されています。その残骸であるかに星雲の中心には超新星爆発によって誕生したとみられる中性子星「かにパルサー」が存在することが知られているほか、近年では超高エネルギーガンマ線の発生源としても注目されています。
今回、高橋忠幸氏(東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構)らはナミビアの「ヘス望遠鏡」を使い、かに星雲の超高エネルギーガンマ線を観測しました。実は、かに星雲のガンマ線がどれくらいの範囲から放たれているのかは、観測技術の制約もあって明らかではなかったのです。
今回の観測によって、かに星雲からのガンマ線は点のような狭い範囲から放たれているのではなく、一定の広い範囲から放たれていることが初めて判明しました。その範囲は、かに星雲をX線で見た場合よりも広く、紫外線で見た場合よりも狭いこともわかりました。
かに星雲が放っているような超高エネルギーガンマ線は、高速で移動する電子が光子にエネルギーを与える「逆コンプトン散乱」という仕組みで生じると考えられています。研究チームは、今回の観測結果がこの説を強く支持するものだとしています。
■地上の望遠鏡ならではの仕組みを持つ「ヘス望遠鏡」今回の観測に用いられたヘス望遠鏡は、欧州各国や日本などが共同で運営する観測施設です。名称の「H.E.S.S.(High Energy Stereoscopic System)」は、1912年に宇宙線を発見したヴィクトール・フランツ・ヘスにちなんで名付けられました。
ヘス望遠鏡は超高エネルギーガンマ線の観測に特化しており、高エネルギーのガンマ線が地球の大気中で発生させる「チェレンコフ光」を捉えることでガンマ線の発生源を観測する「大気チェレンコフ望遠鏡」が、大小5基設置されています。地球の大気をも利用する、地上に建設された望遠鏡ならではの仕組みと言えます。
ただ、大気を利用するシステムであるため、精密な観測を行うには大気の状態を正確にシミュレートする必要があります。今回の観測では実際の観測条件に沿った地球大気のシミュレーションデータを構築することに成功し、ガンマ線が飛来してきた方向の誤差を従来の約半分に削減。かに星雲を超高エネルギーガンマ線で見た場合のサイズを測定することにつなげています。
Image: Abdalla, H., et al.
Source: IPMU
文/松村武宏