宇宙望遠鏡「ケプラー」や系外惑星探査衛星「TESS」などの活躍により、岩石質とみられる太陽系外惑星がすでに幾つも見つかっています。こうした系外惑星にも大気が存在するのか、液体の水や生命が存在し得るかどうかが注目されていますが、2021年半ばに打ち上げ予定の宇宙望遠鏡「ジェイムズ・ウェッブ」なら、大気の有無がたったの数時間の観測で判明するかもしれません。
■系外惑星が恒星に隠れる「二次食」を利用先日、地上でのサンシールド(日除け)展開テストに成功したジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡。この宇宙望遠鏡を用いた系外惑星の観測手法についてまとめた複数の論文が、12月2日付でThe Astrophysical Journalに掲載されました。
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系外惑星を見つける方法のひとつに、地球から見て系外惑星が恒星の手前を横切る現象(トランジット)を起こしたときの恒星の明るさを分析する「トランジット法」があります。今回の一連の論文では、トランジットとは逆に、系外惑星が恒星の裏側に隠れる「二次食」という現象を利用することが想定されています。
二次食を起こす直前と直後、つまり「恒星の裏側に隠れる直前と、再び現れた直後」の系外惑星は、地球からは昼間の側が見えることになります。このとき、系外惑星が周回する恒星を観測すると、その光にはごくわずかながらも、系外惑星の昼側から反射された光が含まれています。
いっぽう、系外惑星が恒星の裏側に回る二次食のあいだは、恒星の光に系外惑星が反射した光は含まれていません。そのため、二次食の直前や直後の観測データ(系外惑星の反射光が混じっている)から、二次食のあいだに取得された恒星だけの光の観測データを差し引くことで、系外惑星の反射光にもとづくデータだけを分離することができます。
こうして得られたデータをもとに惑星表面の温度を分析すると、大気の有無が推定できます。大気を持たない系外惑星よりも、大気が存在していて熱の循環が起きたり、雲によって恒星の光が反射されやすかったりする系外惑星のほうが、昼側の温度は低くなるとみられるからです。Daniel Koll氏(マサチューセッツ工科大学)らの研究チームによると、赤色矮星(M型星)を公転する系外惑星をジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で観測する場合、大気の有無を推定するのに必要な観測時間はわずか数時間。1回か2回の二次食を観測するだけで、大気の有無が推定できてしまうといいます。
■岩石質の系外惑星のうちどれくらいが大気を持つのか?今回考案された二次食を利用する観測手法は、短時間で大気の有無を推定するのに向いています。すでに見つかっている岩石質の太陽系外惑星のうち、二次食が観測できるものをジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で調べることで、岩石質の系外惑星にはどれくらいの割合で大気が存在するのかが判明するでしょう。
また、大気を持っていそうな系外惑星が見つかったら、次はその大気の組成が調べられることになります。系外惑星の大気組成は、トランジットを起こしたときの恒星の光を詳しく調べることで判明しますが、この観測もジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で行うことができます。
「ゲーム・チェンジャー」とも呼ばれるジェイムズ・ウェッブによる観測が始まることで、系外惑星探査は新たなステップに進むことになります。2021年の打ち上げが今から楽しみであるとともに、大きなトラブルに見舞われないことを願うばかりです。
Image Credit: L. Hustak and J. Olmsted (STScI)
https://www.nasa.gov/feature/goddard/2019/astronomers-propose-a-novel-method-of-finding-atmospheres-on-rocky-worlds
文/松村武宏