火星の有人探査を実行に移す上で、水の確保は欠かせません。今回、火星の地下どれくらいの深さに水の氷が埋まっているのかを分析した研究成果が発表されました。
■表面温度が変化する様子から氷が埋もれている深さを推定月や火星に人間が降り立って探査を行うには、宇宙飛行士の生命を維持するためのシステムを構築しなければなりません。なかでも命を支えるのに必要な水を確保するために、月や火星の地下に埋蔵されている水を現地で調達する「その場資源利用(ISRU:In-Situ Resource Utilization)」技術が検討されています。
今回、Sylvain Piqueux氏(NASA・ジェット推進研究所)らの研究チームは、NASAの「マーズ・リコネッサンス・オービター(MRO)」と「2001 マーズ・オデッセイ」による火星地表の観測データをもとに、火星の地下どれくらいの深さに水の氷が埋もれているのかを推定しました。
氷が埋もれている深さによって地表の温度変化の様子が変わることに着目して分析を行った結果、火星の中緯度地域でも、地下数十cm程度という比較的浅いところに水の氷があるらしいことが判明しました。
なかでも注目されているのが、火星の北半球にあるアルカディア平原です。推定結果を地図上にマッピングしたところ、有名なオリンポス山があるタルシス台地の北に広がるアルカディア平原では、場所によっては深さ10cmにも満たない、高緯度地域並みの浅いところに水の氷が埋もれている可能性が示されたのです。
2008年5月、火星の北極周辺に広がるボレアリス盆地に着陸したNASAの火星探査機「フェニックス」は、火星の地下浅いところに水の氷とみられる物質を発見しました。今回の研究成果通りなら、フェニックスが着陸した場所よりもっと緯度が低い地域でも、地表から数cmも掘れば水の氷が手に入るかもしれません。
冒頭で触れたように、火星の地下にある水の氷は、将来の火星有人探査において採掘・利用することが想定されています。Piqueux氏が「重機がなくてもシャベルで掘れる」と表現するほど浅いところに水の氷があるとすれば、アルカディア平原は有人探査の有力な候補地となるはずです。
Image Credit: NASA/JPL-Caltech/ASU
Source: JPL
文/松村武宏