1999年、南天の「はえ(蝿)座」の方向に白色矮星と連星を成すパルサー(中性子星)が見つかりました。このパルサーを観測することで連星の相手である白色矮星の自転周期を求めるとともに、連星がどのように進化したのかを解き明かした研究成果が発表されています。研究の鍵となったのは、アインシュタインの相対性理論でした。
■超新星爆発前に物質が移動したことで白色矮星の自転が加速今回、Vivek Venkatraman Krishnan氏らが研究したパルサー「PSR J1141-6545」は、太陽の約1.27倍の質量を持ち、1秒間におよそ2.54回の速さで自転しています。このパルサーは太陽とほぼ同じ質量を持つ白色矮星と連星を成していて、互いの周りをおよそ4.7時間で一周しています。
研究チームは、オーストラリアのパークス天文台にある電波望遠鏡で20年間に渡り取得されてきたパルサーの観測データを参照し、白色矮星の自転による影響を受けて変化し続けているパルサーの軌道を分析しました。その結果、白色矮星がおよそ100秒(1分40秒)という非常に短い周期で自転していたことが明らかになりました。
太陽の8倍よりも軽い恒星が赤色巨星の段階を経て進化した姿とされる白色矮星の自転周期は、単独で存在する場合は数時間程度とみられています。研究チームでは、今回の研究対象となった白色矮星が周期2分弱という短時間で自転するようになったのは、連星の相手であるパルサーが原因ではないかと考えています。
研究チームは、後にパルサーとなる恒星が寿命を迎えて巨大化した頃、先に誕生していた白色矮星に向かって、パルサーになる前の恒星から物質の一部が移動したとみています。降着円盤を経て落下する物質の角運動量によって自転が加速された結果、白色矮星が非常に短い自転周期を得るという可能性は過去に示されており、理論上予想された「200秒未満」という自転周期と今回判明した自転周期は矛盾しないとしています。
なお、パルサーは太陽よりも8倍以上重い恒星の超新星爆発によって誕生するとされる、サイズが小さく高密度な天体です。恒星の寿命は質量が大きいほど短くなることから、パルサーと白色矮星の連星ではパルサーのほうが先に誕生することが多いと考えられていますが、この連星では白色矮星のほうが先に誕生したとみられています。
今回の研究では、高速で自転する白色矮星がもたらす「レンス・ティリング(Lense-Thirring)効果」が利用されました。「慣性系の引きずり」とも呼ばれるこの効果はアインシュタインの一般相対性理論によって説明されるもので、重力源となる天体の周囲の時空間が、天体の自転に引きずられて回転する現象です。
研究対象となった連星では、パルサーの軌道が白色矮星の自転軸に対して傾いています。そのため、白色矮星の自転にともなうレンス・ティリング効果によって、パルサーの軌道全体が歳差運動するように少しずつ回転していく様子が観測データの分析によって示されました。
なお、レンス・ティリング効果は地球の周囲でもわずかながらに生じており、NASAの観測衛星「Gravity Probe B」などによって実際に測定されています。
Image Credit: ARC Centre of Excellence for Gravitational Wave Discovery
Source: マックス・プランク電波天文学研究所 / The Conversation
文/松村武宏