みずがめ座の方向およそ40光年先にある赤色矮星「TRAPPIST-1」の周囲では、7つの太陽系外惑星が発見されています。そのうち3つの系外惑星の軌道の傾きを分析した結果、軌道が大きく乱れるような出来事を経験しなかった可能性が高いとする研究成果が発表されています。
■惑星の形成後も軌道を乱されることなく現在に至ったものとみられる平野照幸氏(東京工業大学)らの研究チームは国立天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」を使い、TRAPPIST-1を周回する3つの系外惑星「TRAPPIST-1 b」「同e」「同f」の公転軌道が主星であるTRAPPIST-1に対してどれくらい傾いているのかを詳しく調べました。
観測データを分析した結果、これらの惑星の公転軸の傾きは4~32度(軌道の傾きが3つともそろっているものと仮定)とみられており、検証のためにさらなる観測が必要ではあるものの、主星の自転軸とおおむねそろっている可能性が高いとされています。
TRAPPIST-1で知られている系外惑星は、7つとも地球に近い直径や質量を持つとみられています。なかでもTRAPPIST-1 e、同f、同gの3つはハビタブルゾーンに入っていることからその性質に注目が集まっていますが、地球サイズの系外惑星は観測が難しく、公転軌道について得られた情報も限られていました。
今回の成果について研究チームは、低温で軽い赤色矮星の周囲でも太陽系のように複数の惑星が傾きの小さい同じような軌道に形成され、その後も軌道が大きく乱されない可能性が示されたことは、小さな恒星で形成される惑星やそこで誕生する生命に関する議論にとって重要なものだとしています。
■自転する恒星の光に生じるドップラー効果を利用今回の研究では、恒星の手前を系外惑星が横切る際に生じる「ロシター効果」(ロシター・マクローリン効果)が利用されました。
自転する恒星から地球に届く光のうち、地球に近づくように回転する側から発せられた光はドップラー効果によって波長が短く(青寄りに)、遠ざかるように回転する側から発せられた光は波長が長く(赤寄りに)なります。恒星は遠くて点のようにしか見えないので、地球からはこれらが足しあわされた光を見ることになります。
ところが恒星の手前を惑星が横切る「トランジット」が起きると、地球から見たときに系外惑星が恒星のどの部分を隠しているかによって光の足しあわされ方に変化が生じ、恒星が地球から遠ざかっているように見えたり、反対に近づいているように見えたりします。これがロシター効果と呼ばれる現象です。
恒星のどの部分が隠されるのかは、系外惑星の軌道の傾き方によって変わります。そのため、ロシター効果を詳しく調べることで、トランジットを起こしている系外惑星の軌道が主星の自転軸に対してどれくらい傾いているのかを知ることができるのです。国立天文台によると、地球に似た系外惑星の軌道の傾きが観測によって測定されたのは、すばる望遠鏡を用いた今回の研究が初めてだということです。
Image Credit: NASA/JPL-Caltech
Source: 国立天文台 / 東京大学
文/松村武宏