さえぎるものがない宇宙を観測していると、時として目的のものとは別の天体が現れることがあります。
画像の左側に写っている星の集まりは「さんかく座」の方向およそ1500万光年先にある矮小銀河「AGC111977」です。矮小銀河は星の数が少なく、幾何学的に明瞭な形状を確認することができない銀河ですが、その一つ一つは渦巻銀河や棒渦巻銀河とはまた違った個性を備えた姿をしています。画像の中央付近に見える針のような光をともなった天体は、手前の天の川銀河に存在する星々。矮小銀河の周囲には、さらに遠くに存在する銀河も幾つか写っています。
注目すべきは、画像の右端付近に見える2本の淡い曲線です。曲線は半分が青っぽく、もう半分が赤っぽく写っています。画像は2012年11月16日に「ハッブル」宇宙望遠鏡によって2つの異なる波長(606nmと814nm)で撮影されたものをそれぞれ青と赤に着色し、1つに合成することで作成されました。この曲線は、ハッブルの撮影中に何らかの天体が高速で横切っていたことを意味しています。
曲線の正体は、矮小銀河や天の川銀河の恒星よりもずっと手前の太陽系に存在する小惑星の軌跡とみられています。軌跡が2本写り込んでいるので、この画像では2つの小惑星が同時に捉えられていたことになります。
小惑星の軌跡を発見したのは、ハッブル宇宙望遠鏡の画像に偶然写り込んだ小惑星を見つける市民参加型プロジェクト「Hubble Asteroid Hunter」に参加していたボランティアたち。欧州宇宙機関(ESA)によると、2019年6月に始まったこのプロジェクトでは世界中から9000人のボランティアが参加し、14万枚の画像から1500本の軌跡が見つかっているとのことです。
Image Credit: ESA/Hubble & NASA; J. Cannon (Macalester College)
Source: ESA
文/松村武宏