初期の太陽系では地球の月が形成されるきっかけになったり天王星の自転軸を傾けたりするような巨大衝突が起きたと考えられており、最近では太陽以外の恒星の周囲でも巨大衝突の痕跡とみられる観測データが得られています。今回、地球のような惑星が巨大衝突を経験する際に大気がどのような影響を受けるのかがシミュレーションを通して分析されています。
■月を生み出すような巨大衝突でも大気の9割ほどは失われずに残る可能性地球は木星のようなガス惑星と比べれば薄い大気を持っており、近年発見が相次いでいる太陽系外惑星のなかには厚いものから薄いものまでさまざまな大気を持つと予想されるものがあります。こうした惑星が持つ大気は、地球の月が形成されるきっかけとなったような巨大衝突が起きたときに、どのような影響を受けることになるのでしょうか。
Jacob Kegerreis氏(ダラム大学)らの研究グループは、地球のような惑星が持つ薄い大気が巨大衝突から受ける影響を調べるために、惑星の質量や組成、衝突の角度や速度などの条件を変えた100通り以上の3Dシミュレーションをスーパーコンピューターを用いて実行し、その分析結果を発表しました。
地球の月は初期の地球が火星ほどのサイズの原始惑星と衝突したことで形成されたとみられていますが、原始惑星は真正面からではなく地球をかすめるように衝突したのではないかと考えられています。研究グループが月の誕生時に起きたとみられる巨大衝突をシミュレーション上で再現したところ、衝突の直接的な影響によって失われる大気の量は10パーセント程度と見積もられています。
いっぽう、衝突の影響で惑星の大気が大量に失われてしまうこともあるようです。研究グループが真正面から高速で衝突するような条件でシミュレーションを実行したところ、マントルの一部とともに大気が完全に失われたケースもあったといいます。地球の大気は誕生から現在までの間に変化してきたと考えられていますが、巨大衝突の様子によっては今よりもずっと薄い大気を持つ惑星になっていたかもしれません。
ダラム大学の発表では今回の研究について、太陽系だけでなく系外惑星においても一般的かつ重要な出来事と考えられる巨大衝突の詳細な影響を伝えるものだとしています。また、惑星の質量や組成が巨大衝突に与える影響をより詳しく調べるために、研究グループはさらに数百通りのシミュレーションに取り組んでいるとされています。
Image Credit: NASA/SOFIA/Lynette Cook
Source: ダラム大学
文/松村武宏