こちらは今年の8月25日に「ハッブル」宇宙望遠鏡が撮影した木星の最新画像です。撮影時の木星は地球からおよそ6億5300万km離れていました。画像には地球がすっぽり入ってしまうほど大きなおなじみの「大赤斑」をはじめ、そのすぐ下で渦巻いている「オーバルBA」と呼ばれる白っぽい嵐や緯度によって色が変わる雲の帯など、魅力的な木星の姿がくっきりと捉えられています。
オーバルBAは一時期大赤斑のように赤みを帯びていましたが、2006年以降は元の白っぽい色に戻っていました。今回撮影された画像ではオーバルBAの中央部分の色が変わりつつあるように見えており、再び赤みを帯びる可能性が指摘されています。また、北半球の左側には撮影の1週間前に出現した新しい嵐の東西に伸びた白っぽい姿が見えています。
木星の左側にはガリレオ衛星のひとつであるエウロパが小さく写っています。エウロパは氷の地殻の下に海が存在すると考えられていて、ハッブル宇宙望遠鏡によって2013年にエウロパから噴出した水蒸気が観測されたとする研究成果が発表されています。エウロパの地下の海には生命が存在する可能性も指摘されており、土星の衛星エンケラドゥスとともに太陽系における地球外生命探査の候補地として注目を浴びています。2020年代には欧州宇宙機関(ESA)が主導する木星氷衛星探査計画「JUICE」やNASAの「エウロパ・クリッパー」といった、エウロパの観測を行う探査機が打ち上げられる予定です。
なお、ハッブル宇宙望遠鏡は同じ日に紫外線や赤外線の波長でも木星を撮影しています。多波長の観測データを組み合わせてみると、北半球の新しい嵐の一部が大赤斑やオーバルBAのように紫外線の波長を吸収しているように見えます。研究者は今回発生した嵐が長期間継続する可能性があり、場合によっては大赤斑に匹敵する存在になるかもしれないと推測しています。もしかすると私たちは今、木星の新たなシンボルが誕生した瞬間を目撃しているのかもしれません。
これらの画像は2014年に始まった「OPAL(Outer Planet Atmospheres Legacy)」プログラムのもとで撮影され、2020年9月17日に公開されました。
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Image Credit: NASA, ESA, A. Simon (Goddard Space Flight Center), and M. H. Wong (University of California, Berkeley) and the OPAL team.
Source: ESA/Hubble
文/松村武宏