アリゾナ大学のFeige Wang氏らの研究グループは、今から130億年以上前の宇宙に存在していた「クエーサー」が新たに見つかったことを発表しました。研究グループはこのクエーサーについて、これまで観測されたもののなかでは最も遠くに見つかったクエーサーだとしています。
クエーサーとは銀河全体よりも明るく輝くほど活発な銀河中心核のことで、その原動力は超大質量ブラックホールだと考えられています。今回Wang氏らが見つけたクエーサー「J0313-1806」はエリダヌス座の方向にあり、その明るさは太陽の10兆倍以上、天の川銀河全体と比べても1000倍以上に達するといいます。
関連:宇宙で最も明るい天体「クエーサー」とは?
初期の宇宙に存在する天体までの距離は、その天体の赤方偏移(宇宙の膨張にともなって光の波長が伸びた量、遠くの天体ほど数値が大きい)をもとに算出されます。研究グループによるとJ0313-1806の赤方偏移は7.64で、2018年に報告されたクエーサー「J1342+0928」の7.54を上回っており、既知のクエーサーの最遠記録を更新したとされています。
J0313-1806はビッグバンからおよそ6億7000万年後の宇宙に存在していたとみられていますが、活動の原動力となる超大質量ブラックホールの質量はこの時点で太陽の約16億倍にも達していたようです。Wang氏によると「宇宙最初の世代の星から誕生したブラックホールでは、数億年でここまで成長することはできなかったはず」だといいます。近年、ビッグバンから数億年後の時点ですでに太陽の10億倍以上の質量を持つ超大質量ブラックホールが存在していたことが明らかになりつつあり、ブラックホール急成長の謎を解くための研究が進められています。
また、クエーサーからはガスの風が吹いていることがすでに知られていますが、J0313-1806の風は光の速さの約20パーセントという高速であることも明らかになったといいます。研究に参加したアリゾナ大学スチュワード天文台のJinyi Yang氏は「これほど極端な速度の流出をもたらすクエーサーのエネルギー放出は、クエーサーが存在する銀河全体の星形成にも十分影響を与えられます」と語ります。
J0313-1806が存在する銀河では天の川銀河の200倍というハイペースで星が形成されていたとみられています。Wang氏らは、活発な星形成活動、明るいクエーサー、そして高速のクエーサー風を併せ持つこの銀河について、初期の宇宙における超大質量ブラックホールと銀河の成長を理解するための有望な観測対象として注目しています。
関連:約134億光年先の天体「GN-z11」が観測史上最遠の銀河だと確定
Image Credit: NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva
Source: NOIRLab
文/松村武宏