ハワイ大学マノア校のAnna Payne氏らの研究グループは、ある銀河において約114日ごとに繰り返されている増光現象について、超大質量ブラックホールを周回する恒星の一部がブラックホールに引き裂かれることで起きている可能性が高いとする研究成果を発表しました。
増光が繰り返されているのは南天の「がか座」(画架座)の方向およそ5億7000万光年先にある活動銀河「ESO 253-3」です。この銀河では2014年11月14日にオハイオ州立大学が運用する超新星全天自動サーベイ「ASAS-SN(All Sky Automated Survey for SuperNovae)」によって超新星爆発とみられる増光現象「ASASSN-14ko」が検出されていました。
ところが2020年の初めにPayne氏がASAS-SNの観測データを調べたところ、全部で17件の増光現象が約114日間隔で起きていたことに気がついたといいます。アメリカ航空宇宙局(NASA)のガンマ線観測衛星「ニール・ゲーレルス・スウィフト」をはじめとした宇宙や地上からの共同観測を準備したPayne氏らの予測通り、増光現象は2020年5月17日、9月7日、12月26日にも検出されています。
研究グループが観測データを分析した結果、増光現象はESO 253-3の中心に存在するとみられる超大質量ブラックホール(質量は太陽の約7800万倍)の潮汐力によって恒星の一部が破壊され、ブラックホールへと落下していく過程で生じた可能性が高いと考えられています。恒星はブラックホールへ接近する度に木星の約3倍に相当する質量のガスを失っていると試算されています。
ブラックホールがもたらす潮汐力によって天体が破壊される「潮汐破壊」と呼ばれる現象はこれまでにも観測されていますが、ESO 253-3では超大質量ブラックホールの周囲を細長い楕円軌道を描きながら約114日周期で恒星が周回しており、ブラックホールへ接近したときにその一部を引き裂かれつつも生き延びているために、繰り返し増光現象が起きているとみられています。ただ、毎回ガスを失っている恒星が存在し続けることはできず、増光現象がいつまで繰り返されるのかはわからないといいます。
研究に参加したオハイオ州立大学のKris Stanek氏は、周期が判明しているASASSN-14koについて「一時的な超大質量ブラックホールへの質量降着(周辺のガスが降り積もる現象)を理解する上でとても貴重な機会が得られます」と語ります。研究グループでは今年の4月と8月にも予想されている次回以降の増光を引き続き観測し、より詳細な分析を行う予定です。
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Image Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center
Source: オハイオ州立大学 / カーネギー研究所 / NASA
文/松村武宏