フランス国立科学研究センター(CNRS)のMelaine Saillenfest氏らの研究グループは、土星の自転軸は軌道面(公転軌道が描く平面)に対する傾斜角が今も増し続けていて、その角度は今後数十億年で現在の2倍以上になる可能性を示した研究成果を発表しました。
■土星の自転軸は約10億年前から傾き始めた?太陽系で2番目に大きく、幅の広い輪が印象的な惑星である土星の自転軸は、軌道面に対して約27度傾いています。巨大惑星の自転軸の傾きはさまざまで、太陽系最大の惑星である木星の自転軸は3度ほどしか傾いていませんが、天王星はほぼ横倒し(約98度)になっているほどです。
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(Credit: NASA, Animation: James O’Donoghue (JAXA))
惑星は若い星を取り囲むガスや塵の集まりである原始惑星系円盤のなかで誕生すると考えられています。研究グループによると、形成されて間もない巨大惑星の自転軸は軌道面に対してあまり傾いていないとみられるものの、土星の自転軸は今から40億年以上前に軌道が変化した海王星の影響を受けて傾き、その後は安定した状態が続いていると考えられてきたといいます。
ところが研究グループによる分析の結果、土星の自転軸は誕生から30億年以上に渡りほとんど傾いておらず(研究グループは3度未満と推定)、従来の想定よりもずっと後の時代である今から約10億年前に傾き始め、現在も継続している可能性が示されました。その理由は土星の衛星、特にタイタンの影響によるものだといいます。
タイタンは潮汐力の作用によって土星から少しずつ遠ざかっていて、2020年に発表されたValéry Lainey氏らの研究により、そのペースは従来の予想と比べて100倍以上となる毎年約11cmであることが明らかになっています(関連:タイタンは毎年11cmずつ土星から離れている。予想の100倍以上のペース)。Saillenfest氏らがこの最新の知見をもとに分析を行ったところ、従来の予想を上回るペースで遠ざかるタイタンの軌道の変化が土星の自転軸の傾き方に影響を及ぼすことが判明したといいます。
前述のように、従来は土星の自転軸が傾いたのは40億年以上前のことで、それ以降は安定していると考えられてきました。これに対し研究グループは、タイタンが土星の近くを公転しているうちは自転軸が大きく傾くのを防ぐ役割を果たしていたものの、タイタンが遠ざかり続けたことで約10億年前から土星が海王星の影響を強く受け始めたと考えています。現在の約27度という角度はあくまでも過渡期の状態であって安定しているわけではなく、増し続ける自転軸の傾斜角は今後数十億年で現在の2倍以上に達する可能性があると予測しています。
■木星の自転軸も今後50億年で30度以上傾く可能性を指摘なお、Saillenfest氏らは木星でも同様のことが起こりつつあるとする研究成果を昨年発表しています。研究グループによると、木星のガリレオ衛星(イオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト)も土星のタイタンと同様に木星から徐々に遠ざかっていて、その結果として木星の自転軸が天王星の影響を受けて傾きつつあり、50億年後には6度から37度傾く可能性があるとしています。
Image Credit: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute
Source: CNRS
文/松村武宏