2020年には同国初の火星探査機打ち上げと44年ぶり史上3か国目の月面サンプルリターンを成し遂げ、間もなく独自の宇宙ステーション建設を始めようとしている中国。その存在感は宇宙開発・宇宙探査の分野においても着実に増しつつあります。中国は2020年代末に木星探査ミッションの探査機打ち上げを計画しており、現在検討されているそのミッションの概要をアメリカ惑星協会の編集者Andrew Jones氏が伝えています。
Jones氏によると、中国では現在「Jupiter Callisto Orbiter」(JCO、木星カリスト周回衛星)および「Jupiter System Observer」(JSO、木星系探査機)という2つの異なるミッション(日本語訳は筆者による)が検討されていて、どちらか1つが採択されるとみられています。JCOとJSOはいずれも2029年に打ち上げられ、2035年に木星へ到着する計画とされています。
木星ではガリレオ・ガリレイが発見した4つのガリレオ衛星をはじめ、これまでに合計79個の衛星が見つかっていますが、そのなかには別の場所で形成された後に木星に捉えられたと思われる不規則衛星(惑星の自転方向とは逆向きに公転する逆行衛星や、傾いた楕円形の軌道を周回しているような衛星)が多く存在しています。
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JCOとJSOはこれら不規則衛星のサイズ、質量、組成を調べるとともに、アメリカ航空宇宙局(NASA)が打ち上げに向けて準備を進めている木星の衛星エウロパを対象とした「エウロパクリッパー」や、木星のトロヤ群小惑星が対象の「ルーシー」、それに宇宙航空研究開発機構(JAXA)も参加する欧州宇宙機関(ESA)主導の木星氷衛星探査計画「JUICE」といった探査ミッションを補完するものとされています。また、JCOとJSOには木星周辺で放出される超小型衛星が搭載され、木星磁場の多点観測が実施される可能性もあるようです。
このように共通する部分もあるJCOとJSOですが、それぞれ独自の探査活動も予定されています。
まず、JCOはガリレオ衛星のうち木星から一番遠いカリストを周回する極軌道に投入される予定で、ミッションにはカリストに降り立つ着陸機が含まれる可能性があるといいます。火山活動が活発なイオや氷の地殻の下に海が存在する可能性が指摘されているエウロパやガニメデと比べて、カリストは木星や他のガリレオ衛星との相互作用による衛星内部の潮汐加熱が弱いと考えられており、形成後に目立った地質活動はなかったとみられています。そのため、カリストからは木星やその衛星が形成された当時、さらには太陽系初期の歴史を知ることができる可能性があると期待されています。
いっぽう、JSOはガリレオ衛星のイオにフォーカスしたミッションとなっており、複数回実施されるイオの接近観測を通して木星の重力が火山活動を促す仕組みを調べるとされています。また、JSOのミッション終盤では探査機が木星と太陽の重力が釣り合うラグランジュ点のひとつ「L1」に送られ、木星磁場の外側における太陽風の観測や、遠方からの不規則衛星の観測が行われる可能性もあるようです。
なお、検討中の木星探査ミッションは紀元前4世紀の天文学者にちなみ「甘徳」(Wikipedia)と命名される予定で、Jones氏は新型コロナウイルス感染症にともなう制限が緩和され次第、国際協力などに関する会議の開催が期待されているとしています。
Image Credit: NASA/JPL/DLR
Source: アメリカ惑星協会
文/松村武宏