フィンランド気象研究所の宇宙物理学者であるPekka Janhunen氏が、火星と木星のあいだに広がる小惑星帯(アステロイドベルト)にある準惑星「ケレス」に人類を入植させる新しいアイディアを展開しました。Janhunen氏は、太陽風の荷電粒子を受けて宇宙船を推進する「エレクトリックセイル(電気帆)」の考案者としても知られます。
火星や月の表面は低重力環境であり、人の健康への長期的な影響が懸念されることから居住に適さないと考えている宇宙科学者らは、火星や月の代替案として自転することで得られる遠心力で人工的に重力を作り出すスペースコロニーの建設を提案してきました。古くは、米国・プリンストン大学教授のGerard O’Neill教授が1974年に超巨大な「シリンダー(円筒)」状のスペースコロニーのアイディアを論文誌上に発表しています。
Janhunen氏が導き出した最適解は、ケレスの赤道上空の軌道上にスペースコロニーを建設することでした。スペースコロニーの高度はケレスの表面に十分近く、高さ約1,024km(約636マイル)の宇宙エレベーターを設置すればスペースコロニーを建設するための資材や補給物資を運べるといいます。また、スペースコロニーの居住空間内に地球に似た大気を作り出すための窒素、水、二酸化炭素を十分に確保できるという点でも、ケレスは好都合だといいます。
このスペースコロニーは巨大な円盤の表面に直径2km、全長10kmのシリンダー数千個を相互連結させるというSFさながらの壮大なスケール。各シリンダーを回転させることで内部に地球の表面に近い重力の環境を人工的に再現するという点では、O’Neill教授が提唱したスペースコロニーと共通しています。
各シリンダーは居住空間や農場、娯楽用の空間等に用いられることが想定されていて、Janhunan氏は都市エリアや田舎エリアなどの区分を設定するだけでなく、都市エリアでの重力は地球表面の81パーセント、シリンダー1つ当たりの人口は5万6700人、1人当たりの居住面積は2,000平方mといった綿密な計画も立てています。Janhunen氏によると、原理的には世界人口の約1万倍もの住民をこのスペースコロニーに収容できるといいます。
またJanhunen氏は、太陽光を集めるためにスペースコロニーの端に2枚の巨大な鏡を45度の傾斜で二枚貝のように設置するというアイディアを発案しています。この鏡により、シリンダー間で地球のような時差を再現するといいます。今後は地球からケレスまでの輸送手段や居住空間内の移動手段をどうするか、スペースコロニーが安定する最適な高度を求めるのが課題だとJanhunen氏は述べています。
Image Credit: NASA/Jet Propulsion Laboratory
Source: Phys.org, arXiv, Science Alert, National Space Society, O’Neill’s paper reproduced with permission from Physics Today
文/Misato Kadono