おうし座の方向およそ6500光年先にある「かに星雲」(Crab Nebula、M1)は、1054年に観測された超新星の残骸であり、パルサーから吹き出たパルサー風が超新星残骸と衝突することで輝くパルサー星雲(またはパルサー風星雲)の一つでもあります。
ひものようなフィラメント構造が複雑に絡み合う「かに星雲」の中心には超新星爆発にともない誕生した「かにパルサー」(Crab Pulsar、PSR B0531+21)と呼ばれるパルサーが存在しており、かに星雲から届く超高エネルギーガンマ線などのエネルギー源になっていると考えられています。
▲The Crab Nebula through the eyes of SITELLE(Credit: Thomas Martin, Danny Milisavljevic and Laurent Drissen)▲
こちらはCGで立体的に再現された「かに星雲」をさまざまな角度から眺めた動画。全部で40万6472個のデータポイント(動画内では小さな立方体として描画)から構成されています。これはラヴァル大学のThomas Martin氏らの研究グループがハワイのマウナケア山頂にある「カナダ・フランス・ハワイ望遠鏡(CFHT)」を用いて観測したデータをもとに正確に再現された「かに星雲」の姿です。
地球から見た「かに星雲」はいびつな楕円形をしていますが、今回研究グループがCFHTの観測データをもとに超新星残骸全体の姿を立体的に再現したところ、パルサー星雲の平面に対して左右対称なハートに似た形をしていることが明らかになったといいます。先の動画では「かに星雲」からの距離や視点が目まぐるしく変化するのでややわかりにくいものの、あわせて公開された下の静止画を見ると、角度によってはハート型に見えることがわかります。
また、研究グループが観測データをもとに「かに星雲」の構造を詳しく分析した結果、ハニカム構造のようなパターンが存在することも判明したといいます。
「かに星雲」を生み出した超新星については、酸素、ネオン、マグネシウムでできたコアを持つ比較的軽い恒星による「電子捕獲型超新星」と呼ばれるタイプの爆発だったのではないかとする研究成果が過去に発表されていますが、研究グループによると、今回見つかったハニカム構造はより重い鉄でできたコアを持つ恒星が爆発した際のパターンに似ているといいます。
研究に参加したパデュー大学のDan Milisavljevic氏は「観測されたハニカム構造は、電子捕獲型超新星のシナリオとは一致しない可能性があります。この矛盾に対処するためには、かに星雲に分布する元素をマッピングする将来の作業が必要になるでしょう」とコメントしています。
なお、「かに星雲」が立体的に再現されるのは今回が初めてではなく、2020年にはアメリカ航空宇宙局(NASA)の宇宙望遠鏡やX線観測衛星のデータをもとに再現された映像が公開されています。
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Image Credit: Thomas Martin, Danny Milisavljevic and Laurent Drissen
Source: CFHT
文/松村武宏