こちらは「や座」(矢座)の方向およそ1万5000光年先にある惑星状星雲の姿。星雲の中央に写る中心星をリング状に取り囲むように幅2光年ほどに渡りガスが広がっていて、リングのところどころにはガスの塊が明るく写っています。この星雲は「PN G054.2-03.4」と名付けられていますが、宝石が連なっているようにも見えるその外見から「ネックレス星雲(Necklace Nebula)」とも呼ばれています。
超新星爆発を起こさない太陽のような比較的軽い恒星(質量が太陽の8倍以下)が晩年を迎えると、赤色巨星へと進化して周囲にガスや塵を放出します。やがて赤色巨星から白色矮星へと進化していく熱い中心星が放射する紫外線によってガスが電離して輝くようになった天体は、昔の望遠鏡で観測すると惑星のように見えたことから「惑星状星雲」と呼ばれています。
アメリカ航空宇宙局(NASA)や欧州宇宙機関(ESA)によるとネックレス星雲の中心星は連星で、約1.2日の周期で数百万km離れた互いの周りを公転しているといいます。連星の片方が赤色巨星になった際にもう片方の星は一時その外層に飲み込まれたとみられており、飲み込まれた側の星が赤色巨星の内部で公転し続けたことで赤色巨星の自転が加速され、放出されたガスが赤色巨星の赤道に沿うような格好で広がったためにリング状の星雲が形成されたと考えられています。
形は異なるものの、連星が惑星状星雲の姿を左右したと考えられているのはネックレス星雲に限りません。惑星状星雲のなかには整った円形をしているものもあれば、蝶の羽、鳥の翼、砂時計などにたとえられる双極性の形をした「双極性星雲」と呼ばれるものもあります。このうち双極性星雲の形成には接近して周回する連星が関わっていて、赤色巨星のガスが連星の相互作用によって双極方向に噴出することで双極性の形になると考えられています。
冒頭の画像は「ハッブル」宇宙望遠鏡の「広視野カメラ3(WFC3)」による光学観測のデータをもとに作成されたもので、NASA・ESAから2011年8月に公開されています。
関連:3万2000光年先の恒星最期の姿 “たて座”の惑星状星雲
Image Credit: NASA, ESA and the Hubble Heritage Team (STScI/AURA)
Source: ESA/Hubble / hubblesite
文/松村武宏