今からおよそ6600万年前、現在のユカタン半島北端付近に直径十数kmと推定される天体が衝突し、直径約150kmの「チクシュルーブ・クレーター」が形成されました。中生代白亜紀末に起きたこの衝突は、恐竜をはじめ当時地球に生息していた動植物の約4分の3が死滅した大量絶滅の原因として有力視されています。
チクシュルーブ・クレーターを形成したのは、地質学的な証拠をもとに炭素質コンドライトを含んでいた小惑星または彗星だったと考えられています。ハーバード大学のAmir Siraj氏とAvi Loeb氏は、軌道を1周するのに200年以上かかるような長周期彗星によってチクシュルーブ・クレーターが形成された可能性を検討した研究成果を発表しました。
両氏によると、火星と木星の間にある小惑星帯から飛来した直径10km以上の小惑星が地球に衝突する頻度は約3億5000万年に1回と見積もられているものの、このうち炭素質コンドライトの組成を持つ同規模の小惑星が衝突する頻度は約35億年に1回まで下がるといいます。いっぽう、太陽系の最外縁に広がっていると予想されるオールトの雲を起源とする長周期彗星のうち直径10km以上のものが地球に衝突する頻度は約38億~110億年に1回と見積もられていて、小惑星と長周期彗星のいずれも白亜紀末の出来事を説明するには予想される衝突の頻度が低すぎると両氏は指摘します。
今回両氏は長周期彗星の一部が太陽へかすめるように接近する「サングレーザー」になって崩壊し、彗星の断片が太陽系の外縁へと戻っていく過程で地球に衝突する可能性を検討しました。分析の結果、チクシュルーブ・クレーターを形成し得るサイズの断片が地球に衝突する頻度は約2億5000万~7億3000万年に1回まで上昇するといいます。両氏は南アフリカ共和国の「フレデフォート・ドーム」(衝突時期は約20億年前)やカザフスタンの「ザマンシン・クレーター」(同約100万年前)の形成時期が今回の理論を支持する可能性に言及しており、Loeb氏は「太陽に接近した際に破壊されることで、恐竜を絶滅させるような衝突が十分な頻度で生じ得ます」と語ります。
ただし、今回の研究はサングレーザーとなった長周期彗星が崩壊・断片化することで地球への衝突頻度が高まる可能性を理論上示したものであり、チクシュルーブ・クレーターを形成したのが彗星だったと結論するものではありません。Loeb氏はチリで建設・準備が進む「ヴェラ・ルービン天文台」の観測によって太陽系の外縁から飛来する天体がより多く見つかるようになり、長周期彗星に関するデータが増えることで理論が検証できることへの期待を述べています。
また、今回の研究は歴史の謎解きだけでなく、地球を脅かしかねない出来事に対しても極めて重要だとした上で、数多くの生命を絶滅させ得る天体衝突についてLoeb氏は「驚くべき光景だったに違いありませんが、誰もその再来は望みません」とコメントしています。
関連:白亜紀末期の地球に落下した小惑星、最悪の角度で衝突していた?
Image Credit: NASA, ESA, D. Jewitt (UCLA), Q. Ye (University of Maryland)
Source: CfA
文/松村武宏