「はくちょう座X-1(Cygnus X-1)」はブラックホールと恒星から成るブラックホール連星とされる天体のひとつで、半世紀以上に渡り研究されている有名なX線源です。カーティン大学/国際電波天文学研究センター(ICRAR)のJames Miller-Jones氏らの研究グループは、はくちょう座X-1のブラックホールが従来の想定よりも重かったとする研究成果を発表しました。
はくちょう座X-1は名前の通り「はくちょう座」の方向にあり、恒星質量ブラックホールとみられる天体と、約0.2天文単位(※)離れた青色超巨星が約5.6日周期で互いの周りを公転し合っています。これまでは地球からはくちょう座X-1までの距離は約6100光年、ブラックホールの質量は太陽の約15倍と見積もられていました。
※…1天文単位=約1億5000万km、太陽から地球までの平均距離に由来
今回Miller-Jones氏らはアメリカ各地にある10基のアンテナを連携させた電波望遠鏡群「超長基線アレイ(VLBA:Very Long Baseline Array)」を用いて2016年5月から6月にかけて実施した6日間の観測データと、同じくVLBAによって2009年から2010年にかけて取得された観測データを利用し、地球からはくちょう座X-1までのより正確な距離を求めました。
その結果、はくちょう座X-1までの距離は従来の測定結果と比べて20パーセント近く遠い約7200光年であることが明らかになったとされています。さらに、過去の光学観測データもあわせて分析した結果、はくちょう座X-1のブラックホールの質量はこれまでの予想を50パーセントほど上回る太陽の約21倍であることも判明したといいます。発表では、これまでに重力波を使わずに検出された恒星質量ブラックホールとしては最大の質量とされています。
研究に参加したモナシュ大学のIlya Mandel氏によると、はくちょう座X-1のブラックホールはもともと太陽の約60倍の質量を持つ大質量星として誕生したとみられています。また、ブラックホールと連星を成す青色超巨星の質量は太陽の約41倍、直径は太陽の約22倍とされています。
Mandel氏は今回明らかになったブラックホールの質量について、ブラックホールの形成に関する理論に修正を迫るものだと言及。「恒星は表面から恒星風として周囲にガスを吹き出すことで、その質量の一部を失います。しかし、これほど重いブラックホールが形成されるためには、明るい恒星が一生のうちに失う質量の見積もりを下方修正する必要がありそうです」とコメントしています。
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Image Credit: International Centre for Radio Astronomy Research
Source: ICRAR
文/松村武宏