ドイツ電子シンクロトロン(DESY)研究所/フンボルト大学ベルリンのRobert Stein氏らの研究グループは、ブラックホールの強い重力がもたらす潮汐力によって天体が破壊される「潮汐破壊」を受けて恒星が破壊された際に生成された高エネルギーニュートリノが初めて検出されたとする研究成果を発表しました。
2019年4月9日、パロマー天文台に設置されているカリフォルニア工科大学の光学観測装置「ZTF」は、「いるか座」の方向およそ6億9000万光年先にある銀河で発生したアウトバースト(急激な増光現象)「AT2019dsg」を検出しました。AT2019dsgはアメリカの「カール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群(VLA)」やアメリカ航空宇宙局(NASA)のガンマ線観測衛星「ニール・ゲーレルス・スウィフト」、欧州宇宙機関(ESA)のX線観測衛星「XMM-Newton」によって追加観測が実施されています。
その約半年後となる同年10月1日、南極大陸のアムンゼン・スコット基地にあるニュートリノ観測所「アイスキューブ(IceCube)」が宇宙ニュートリノ事象「IC191001A」を検出しました。この事象で検出されたニュートリノは、4月にAT2019dsgが検出されたのと同じ方向から飛来したことが間もなく判明しています。
研究グループはAT2019dsgについて、質量が太陽の3000万倍と推定される超大質量ブラックホールがもたらす潮汐力によって恒星が破壊されたために生じたアウトバーストであり、IC191001Aで検出されたのはこの潮汐破壊にともなって生成された高エネルギーニュートリノだと考えています。研究グループでは、潮汐破壊がニュートリノの発生源ではない確率は0.2パーセントだとしています。
研究を率いたStein氏によると、潮汐破壊にともなって高エネルギーニュートリノが生成される可能性は以前から予想されていたといいます。ただ、ニュートリノは潮汐破壊が起きて間もない段階で生成されると予想されていたものの、実際の観測ではアウトバーストがピークに達した2019年5月から約5か月遅れて検出されており、発表では潮汐破壊のプロセスが再考を迫られていると言及しています。
Stein氏は「観測的な証拠により潮汐破壊と高エネルギーニュートリノを結び付けることができたのはこれが初めてです」とした上で、「AT2019dsgでは予想通りのタイミングや方法ではニュートリノが生成されなかったようです。今回の現象は潮汐破壊をより良く理解する上での助けになるでしょう」とコメントしています。
ニュートリノは物質とほとんど相互作用せず、人体だけでなく地球も簡単に通り抜けてしまうために観測することが難しい素粒子ですが、ごくまれに物質と衝突してチェレンコフ光と呼ばれる光を放ちます。身近なニュートリノの発生源は太陽ですが、超新星爆発や超大質量ブラックホールが放出するジェットの内部などでも生成されると考えられています。
1987年には大マゼラン雲で発生した超新星「SN 1987A」にともなうニュートリノが当時岐阜県で稼働していた「カミオカンデ」によって検出されています。また、アイスキューブは2017年に活動銀河核の一種「ブレーザー」から放出された高エネルギーニュートリノを検出しており、超高エネルギー宇宙線が放射される仕組みの解明につながることが期待されています。
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Image Credit: Sophia Dagnello, NRAO/AUI/NSF
Source: NASA / NRAO
文/松村武宏