宇宙航空研究開発機構(JAXA)の仲内悠祐氏らの研究グループは、太陽風が直接吹き付ける月や小天体などの表層における水分子(H2O)の生成に関する研究成果を発表しました。研究グループによると、従来はこうした環境で水分子が生成されるためには太陽風に加えて微小隕石の衝突が必要だと考えられていたものの、今回の研究では太陽風のみで水分子が生成されることが初めて明らかになったといいます。
2020年10月、月の南半球にあるクラヴィウス・クレーターにおいて水分子が検出されたとするハワイ大学のCasey Honniball氏らの研究グループによる成果がアメリカ航空宇宙局(NASA)から発表されました。月面では極域の永久影(クレーターの内部などで常に太陽光が当たらない部分)に水の氷が存在するのではないかと考えられていますが、月面の太陽光が当たる領域で水分子が検出されたことで、水が月面全体に分布している可能性も指摘されています。
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初期の地球に火星サイズの原始惑星が衝突したことで形成され、表面がマグマに覆われていた頃に水などの揮発性物質が失われたと考えられている月。その表面になぜ水分子が存在するのか。今回の発表によると、月の表面ではまず太陽風の水素イオンが月面の鉱物に照射されることによって水酸基(OH基、ヒドロキシ基)が生成され、そこに微小隕石が衝突することで水分子が生成されている可能性が有力視されてきたといいます。
仲内氏らは今回、太陽風が吹き付ける天体表層の環境を再現するために、炭素質隕石に含まれている含水ケイ酸塩鉱物(蛇紋石とサポナイト)に太陽風のプロトン(陽子)を模した水素イオンビームを照射する高真空環境での実験を行いました。
実験の結果、ケイ素と酸素から成る鉱物中のSi-O結合の一部を照射された水素イオンが破壊し、水酸基を持つSi-OH(シラノール基)や水分子が新たに生成されたことが確認されたといいます。発表によると、従来の研究では水素イオンの照射により水酸基が生成されることは確認されていたといいますが、水素イオンの照射のみで水分子が生成されることを確認したのは今回が世界初の事例とされています。
発表では今回の成果について、太陽風の水素イオンが直接降り注ぐ月面や小天体の表層においてシンプルな反応で水分子が生成されている可能性を示すものであり、月の水がもたらされるプロセスやその量を推定する上で重要な知見になり得るとしています。
Image Credit: NASA/GSFC/Arizona State University
Source: JAXA/ISAS
文/松村武宏