マックス・プランク地球外物理学研究所のWerner Becker氏らの研究グループは、2019年7月に打ち上げられたロシアとドイツのX線宇宙望遠鏡「Spektr-RG」の観測により、「うみへび座」の方向で新たに超新星残骸が見つかったとする研究成果を発表しました。発表によると、この超新星残骸はX線の観測で発見されたものとしては見かけの大きさが最大とされています。
超新星残骸とは、超新星爆発にともなう衝撃波によって周囲のガスが高温に熱せられ、光やX線、電波などを放つ天体のことです。超新星爆発そのものは数か月程度しか観測できないものの、超新星残骸は10万年前後に渡り検出できるとされています。
今回発見された超新星残骸はBecker氏の故郷であるバート・ヘニンゲン(ドイツ)の中世における呼び名にちなみ、研究グループから「Hoinga(ホインガ)」と呼ばれています。発表によるとHoingaの見かけの直径は約4.4度で、満月約90個分の範囲に広がっているといい、地球からの距離は約1600光年と推定されています。
HoingaはSpektr-RGに搭載されているドイツの観測装置「eROSITA」(extended ROentgen Survey with an Imaging Telescope Array)の観測によって発見されました。2020年6月にはeROSITAによって取得された最初のX線全天マップが公開されていますが、冒頭に示したように、その画像でもHoingaを確認することができます。
関連:X線宇宙望遠鏡「Spektr-RG」によって取得されたX線全天マップが公開
研究グループによると、私たちが住む天の川銀河では平均して30年から50年に1回のペースで超新星爆発が起こると見積もられています。検出可能な期間も考慮すれば1200個程度の超新星残骸が見つかるはずだといいますが、これまでに知られているのは約300個に留まります。そこで研究グループでは、X線による全天観測を合計8回行う予定のeROSITAを利用して、未発見の超新星残骸を捜索しています。
研究グループが過去の観測データを調べたところ、1990年代に運用されていたドイツのX線宇宙望遠鏡「ROSAT」もHoingaをかすかに捉えていたといいます。ほかにも10年前に実施された電波観測のデータでも超新星残骸と確認できたものの、Hoingaは超新星残骸の捜索において重視されてきた天の川銀河の円盤から離れたところにあったため、これまで発見には至らなかったようです。
研究に参加した国際電波天文学研究センター(ICRAR)のNatasha Hurley-Walker氏は「より多くの超新星残骸が見つかるのを待っているかもしれません」とコメントしています。研究グループは、過去に多くの超新星残骸が表面輝度の低さや場所などが理由でHoingaのように見落とされてきた可能性を指摘しており、今後のeROSITAの観測に期待を寄せています。
関連:天の川銀河でフェルミバブルを上回る規模の巨大な泡状構造が見つかる
Image Credit: SRG/eROSITA, MPE
Source: マックス・プランク地球外物理学研究所 / カーティン大学
文/松村武宏