武蔵野美術大学の宮原ひろ子氏らの研究グループは、木の年輪に含まれている炭素の放射性同位体を高い精度で分析した結果、17世紀から18世紀にかけて太陽活動が低下した「マウンダー極小期」と呼ばれる時期に先立ち、40年ほど前から太陽の活動周期が通常よりも長くなっていたことが明らかになったとする研究成果を発表しました。
■マウンダー極小期が始まる3つ前の周期は約16年続いていた太陽にはおよそ11年の周期で変化する活動周期の存在が知られており、現在は2019年12月に始まった第25太陽活動周期にあたります。研究グループによると、太陽の活動には約11年の基本的な周期に加えて数百年から数千年のスケールで変動する長期的な周期も存在しており、過去1000年間では太陽活動が5回低下したことが樹木の年輪や氷床コアの分析から示されているといいます。
研究グループは今回、望遠鏡の発明以来記録されてきた黒点の観測データが充実しているとともに活動低下の規模が比較的大きかった1645年~1715年のマウンダー極小期について、直前の太陽活動の変化を明らかにするべく、国内2か所で採取されたスギの年輪に含まれている炭素の放射性同位体「炭素14」の濃度を調べました。
地球上に一番多く存在する炭素の質量数は12ですが、質量数が14の放射性同位体である炭素14もわずかながら存在します。樹木が取り込む二酸化炭素(CO2)のなかには炭素14からなるものも含まれていて、年輪には炭素14の痕跡が残ります。地球の自然界に存在する炭素14は主に地球の大気へ飛来した宇宙線によって生成されますが、宇宙線の強さは太陽活動の強弱にともない変化するため、年輪中の炭素14濃度は太陽活動を調べる手段として利用されています。
研究グループによると、炭素14の濃度として年輪に記録されている太陽活動の変動の振れ幅は大気の影響により弱められていて、これまでは特に11年周期のような短い周期の変化を精細に復元することが難しかったといいます。研究グループは分析システムの改良と重複測定により従来の約4倍まで分析精度を高め、1年の分解能で炭素14を分析することで、各周期の長さを精密に復元することに成功しました。
分析の結果、1601年から始まった周期は通常の約11年に対して約5年という短さだったものの、その次のマウンダー極小期が発生する3つ前にあたる周期は約16年という異例の長さだったことが明らかになったといいます。さらに、約16年続いた周期から2つ後の周期(マウンダー極小期が発生する直前)も、通常より長い12~15年続いていたことが判明したとされています。
■太陽内部の循環が太陽の活動を左右する重要なパラメータの可能性当時の活動周期が通常よりも長かったことについて、研究グループは太陽内部の対流層(太陽の目に見える表面である光球の下にある層)における子午面循環との関連を指摘しています。
研究グループによると、11年周期の活動の長さは子午面循環の速度と関係していることがこれまでに示されているといい、通常よりも長い活動周期は対流層の子午面循環の速度低下を示唆するといいます。18世紀末から19世紀初頭にかけて太陽活動が低下したダルトン極小期(1798年~1823年)では発生直前の活動周期が1つだけ延びていたものの、数十年に渡り黒点数が減少したより規模の大きなマウンダー極小期の場合は3周期(約40年)前から太陽内部の循環に変化が生じはじめ、ゆるやかに活動が低下した可能性を今回の分析結果は示唆するとしています。
研究グループでは、太陽の活動が低下する要因は幾つかあるものの、太陽内部の循環が活動を左右する重要なパラメータであることが今回の結果から強く示唆されるとしており、今後も過去の太陽活動の復元を通して活動の低下・回復の仕組みに関する理解が進むことを期待しています。また、1996年から12年4か月続いた第23太陽活動周期以来、現在の太陽活動はやや低調な傾向にあることから、今後の太陽活動に注視する必要性にも言及しています。
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Image Credit: Miyahara et al.
Source: 武蔵野美術大学
文/松村武宏