マサチューセッツ工科大学・ヘイスタック天文台は3月24日、ヘイスタック天文台も参加するイベント・ホライズン・テレスコープ・プロジェクト(以下EHT)の研究チームが、世界で初めてブラックホール周辺における偏光(polarized light)のようすを視覚化した画像を作成することに成功したと発表しました。研究チームでは、今回の研究成果は、銀河の中心にある超大質量ブラックーホールから噴き出すジェットの形成過程の解明の鍵になるのではないかと期待しています。
EHTの研究チームは、2017年に、アルマ望遠鏡、南極点望遠鏡など世界中に散らばる8つの電波望遠鏡を機能的に結合して地球サイズの巨大電波望遠鏡を構築し、地球から5500万光年離れた楕円銀河M87の中心部にある超大質量ブラックホールの撮影に挑んで成功し、2019年にその画像を公開しました。
今回、研究チームはこのときに取得したデータをさらに深く掘り下げて分析しました。このとき研究チームが着目したのが偏光です。
光(電磁波)は波としての性質を持っていますが、普通の光はさまざまな方向に波打つ(振動する)光が交じり合っています。偏光は、このような普通の光とは異なって、光が波打つ方向が一定の方向にそろった光をいいます。
【▲偏光とは?解りやすく解説した動画】
通常、偏光は偏光フィルターなどを使って発生させますが、自然界にも一定の特別な条件がそろえば、偏光が発生する場合があります。その特別の条件の1つが整った磁場(aligned magnetic fields)の存在です。
光(電磁波)は荷電粒子が加速度運動すると発生しますが、整った磁場が存在すると、荷電粒子の運動の方向がそろうために、発生する光(電磁波)の波打つ方向もそろい、偏光が発生します。逆に言えば、偏光のようすを観測すれば、整った磁場が存在するかどうか解るということになります。
研究チームによれば、今回の画像から、M87の中心部にある超大質量ブラックホールの周辺には整った磁場が存在することが解るといいます。なおブラックホールの周辺で偏光のようすを可視化した画像が作成されたのこれが世界で初めてとなります。
ところで、M87の中心部にある超大質量ブラックホールからは5000光年にも及ぶジェットが噴き出していますが、このようなブラックホールから噴き出すジェットの形成過程にはブラックホールの周辺にある磁場が深く関係していると考えられています。研究チームによれば、今回の画像からは、ブラックホールのジェットは、ブラックホールの周辺に存在し、その強大な重力に負けないほどの力を持つ、整った磁場に捕えられたプラズマの流れから生み出されることが示唆されるといいます。
ブラックホールから噴き出すジェットの形成過程については、まだ多くの謎が残されていますが、研究チームでは、今回の研究成果は、このようなブラックホールのジェットの形成過程に関する謎を解き明かす鍵になるのではないかと期待しています。
Image Credit: EHT Collaboration.
Source: マサチューセッツ工科大学・ヘイスタック天文のプレスリリース
文/飯銅重幸