カリフォルニア工科大学のAna Lobo氏らの研究グループは、土星の衛星エンケラドゥスの地下の海における海水の循環に関する研究成果を発表しました。研究グループによると、エンケラドゥスの地下海では塩分濃度の違いがもたらす南北方向の循環が起きている可能性があるようです。
■赤道域と極域を結ぶ海水循環が存在かエンケラドゥスでは分厚い氷の地殻の下に海が存在すると考えられていて、南極域では氷の亀裂から水蒸気や氷の粒が噴出しているとみられています。研究グループによると、エンケラドゥスの地下海の深さは最低でも30kmで、地球の海よりも深いと予想されています。
研究グループは今回、土星探査機「カッシーニ」の観測によって明らかになったエンケラドゥスの地殻の厚さに注目しました。カッシーニの観測データから、エンケラドゥスの地殻は赤道域のほうが厚く、極域のほうが薄いことが判明しているといいます。研究グループは、エンケラドゥスの地殻の厚さが海水の融解と凍結に関連している可能性に言及しています。
塩水は水が凍って氷になると塩分濃度が高くなり、氷が解けて水になると塩分濃度が低くなります。温度が低かったり塩分濃度が高かったりするほど密度が高くなって沈みやすくなるため、地球の海では温度と塩分濃度に左右される「熱塩循環」と呼ばれる海水の循環が生じています。
研究グループによると、エンケラドゥスの海水も地球と同じように塩分を含んでいると考えられています。これまでエンケラドゥスの海では海底付近で海水が温められ地殻付近で冷やされることで垂直方向の対流が存在すると考えられてきましたが、水が凍る赤道域と氷が解ける極域で塩分濃度にも違いが生じることで、熱と栄養塩の分布に影響を及ぼす南北方向の海水循環も生じているのではないかと研究グループは指摘しています。
エンケラドゥスの海底には高温の水が噴き出す熱水噴出孔が存在し、生命の存続に適した環境になっている可能性があるとして注目されています。研究グループは、地下海のどの領域が生命に適しているのかを理解することは、エンケラドゥスに存在するかもしれない生命を将来探索する上で役立つと考えています。
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Image Credit: NASA/JPL/Space Science Institute
Source: Caltech
文/松村武宏