理化学研究所の榎戸輝揚氏らの国際研究グループは、おうし座の方向およそ6500光年先にある「かにパルサー」と呼ばれるパルサー(高速の自転にともない点滅するように周期的な電磁波が観測される中性子星の一種)を観測した結果、電波バースト現象「巨大電波パルス(GRP:Giant Radio Pulse)」に同期したX線の増光が検出されたとする研究成果を発表しました。
研究グループによると、巨大電波パルス発生時に「かにパルサー」から放出されるエネルギーは従来の予想を大きく上回ることが今回の観測によって判明したといい、ごく短時間だけ強力な電波が放出される現象「高速電波バースト(FRB:Fast Radio Burst)」の謎を解明する上でも重要な知見だとしています。
■電波と同期したX線の増光を初検出、エネルギー量は従来予想の数百倍以上「かにパルサー」は1054年に観測された超新星の残骸である「かに星雲」の中にあり、かに星雲を残した超新星爆発にともなって誕生したとみられています。研究グループによると、「かにパルサー」では周期的な電波のパルスが通常の10倍から1000倍強くなる巨大電波パルスが散発的に観測されているといいます。天の川銀河で見つかっている約2800個のパルサーのうち、こうした巨大電波パルスが発生するのは「かにパルサー」をはじめ十数個のみとされています。
パルサーは電波、可視光線、X線、ガンマ線といった様々な波長の電磁波で観測されていますが、電波とそれ以外の電磁波が放射される仕組みは異なると考えられていたことから、巨大電波パルスは電波でのみ観測されるパルサーの増光現象だと考えられてきました。ところが、巨大電波パルスの発生時に可視光線も数パーセント明るくなることが2003年に判明したことで、さらにエネルギーの大きなX線やガンマ線でも増光しているのかどうかが注目されていたといいます。
研究グループは今回、国際宇宙ステーション(ISS)の船外に設置されているアメリカ航空宇宙局(NASA)のX線観測装置「NICER」、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が運用する臼田宇宙空間観測所の64m電波望遠鏡、情報通信研究機構(NICT)が運用していた鹿島宇宙技術センターの34m電波望遠鏡を使用。2017年から約2年間、X線と電波による「かにパルサー」の同時観測を合計15回実施しました。
観測データを分析した結果、巨大電波パルスと同期してX線が約4パーセント増光していたことが初めて明らかになりました。研究グループによると、X線は電波と比べて解放されるエネルギーがはるかに大きく、わずか4パーセントの増光であっても、巨大電波パルス発生時に放出されるエネルギー量はこれまでの予想よりも数百倍以上大きいことを意味するといいます。
研究グループは、近年その存在が明らかになった高速電波バースト(FRB)にも言及しています。千分の数秒というごく短時間だけ強力な電波が放出される高速電波バーストと巨大電波パルス(GRP)は似た現象であることから、巨大電波パルスの理論モデルは高速電波バーストを説明できるモデルの一つだと考えられてきたといいます。
しかし、巨大電波パルス発生時にX線で大量のエネルギーが放出されていることが今回の研究によって明らかになったことから、単純な巨大電波パルスのモデルで高速電波バーストを説明するのは難しいことがわかったとされています。
いっぽう、高速電波バーストの発生源としては強力な磁場を持つ中性子星の一種「マグネター」の活動が有力視されつつあり、2020年には天の川銀河のマグネターから高速電波バーストが検出されたとするSandro Mereghetti氏らの研究成果が発表されています。
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研究グループでは、活発な若いマグネターの巨大電波パルスを観測する上で、今回の成果が重要な知見を与えると期待を寄せています。
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Image Credit: NASA, ESA and Allison Loll/Jeff Hester (Arizona State University)
Source: 理化学研究所
文/松村武宏