大気が薄く、寒く乾いた大地が広がる火星も、かつては気候が温暖だった時期があり、地表には海が広がっていたと考えられています。当時の火星では生命が誕生していた可能性もあり、2021年2月に着陸したアメリカ航空宇宙局(NASA)の火星探査車「Perseverance(パーセベランス、パーサヴィアランス)」は生命の痕跡を探すことを主な目的としています。
フランス国立科学研究センター(CNRS)のWilliam Rapin氏らの研究グループは、温暖だった火星が約30億年前までに今のような乾燥した環境へと移り変わる過程において、乾燥した時期と湿潤な時期が交互に繰り返されていた可能性を示す研究成果を発表しました。
■分析結果は乾燥した時期の後に湿潤な時期があったことを示唆今回研究グループが利用したのは、2012年8月に火星のゲール・クレーターへ着陸したNASAの火星探査車「キュリオシティ」に搭載されている「ChemCam」のデータでした。キュリオシティのマスト(「顔」と表現される部分)の上部にあるChemCamは、カメラ、レーザー、分光計から構成される観測装置で、最大で7m離れた場所にある岩石や土壌にレーザー光を照射して表面を加熱・蒸発させ、その組成を調べるために主に用いられます。
キュリオシティは、かつて湖が存在していたとされるゲール・クレーターの中央にそびえるアイオリス山(シャープ山)の麓でミッションを行っています。そこで研究グループは、山麓の急峻な斜面に観察される厚さ数百メートルに及ぶ堆積層を遠くから捉えたChemCamの観測データを分析しました。研究グループによると、本来の目的ではないものの、ChemCamのカメラ「リモートマイクロイメージャー(RMI)」は焦点を適切に合わせることで、1km先なら6~10cm、5km先なら30~50cmの分解能で地形の特徴を識別できるといいます。
研究グループによると、アイオリス山の基盤をなす川や湖による堆積物の上には風によって砂丘が形成されたことを示す砂岩層があり、乾燥した気候が長期間続いていたことを物語っているといいます。いっぽう、砂岩層の上には氾濫原を示す典型的な薄い堆積物の層が存在しており、乾燥した気候から一転して湿潤な気候が回復したことを示しているといいます。
分析結果をもとに研究グループは、現在のような乾燥した環境が定着する前の火星では、乾燥した時期と湿潤な時期が入れ替わる大規模な気候変動が起きていた可能性を指摘しています。今後キュリオシティはアイオリス山の丘陵地帯を登って様々な場所のサンプルを採取・分析することが予定されており、古代の火星で起きた気候変動の理解が進むことに研究グループは期待を寄せています。
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Image Credit: NASA/JPL-Caltech/MSSS
Source: フランス国立科学研究センター / ロスアラモス国立研究所
文/松村武宏