NASAが2020年代半ばに打ち上げを予定している次世代宇宙望遠鏡、ローマン宇宙望遠鏡(ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡)は、ハッブル宇宙望遠鏡に匹敵する解像度とその約100倍の視野の広さで、赤外線、可視光線などを観測し、ダークエネルギーの謎の解明や系外惑星の探索などに挑みます。
しかし、ローマン宇宙望遠鏡の活躍分野は決してそれだけではありません。NASAによれば、これまでみつけるのが非常に難しかった恒星質量ブラックホール(solitary small black holes)の確度の高い発見にも活躍することが期待されるといいます。
■恒星質量ブラックホールとは?恒星は中心部で起こっている核融合反応のエネルギーで常に膨れ上がろうとしています。ところが、恒星が歳を取って核融合の燃料が尽きてくると、核融合反応の勢いが弱まって、膨れ上がろうとする力が弱まり、自分自身の重力に負けて、潰れ始めます。
ところで、この恒星が潰れていく過程で、大量の中性子が発生し、恒星の中心部に塊をつくります。この中性子の塊は非常に頑丈でなかなか潰れません。そのため物凄い勢いで潰れてきた恒星全体を勢いよく弾き返します。これが超新星爆発です。
この後この中性子の塊がどのような運命をたどるのかはその質量によります。中性子の塊の質量が太陽の質量の3倍未満ほど(about three solar masses)ならそのまま中性子星として残ります。しかし、その中性子の塊の質量がそれを超える場合には、自分自身の重力に負けて、さらに無限に潰れ続けます。これが恒星質量ブラックホールです。
恒星質量ブラックホールは、連星を形成しているなどの特殊な場合でなければ、みつけるのがとても難しく、これまで天の川銀河全体で20個ほどしかみつかっていません。ただ、みつかっていないだけで、その存在自体は、天の川銀河だけでも約1億個の恒星質量ブラックホールが存在するだろうと考えられています。
■ローマン宇宙望遠鏡はどのようにして恒星質量ブラックホールをみつけるの?ローマン宇宙望遠鏡はこのように非常にみつけにくい恒星質量ブラックホールを重力マイクロレンズ効果を使って探します。
アインシュタインの一般相対性理論によれば、恒星質量ブラックホールのような重い天体の周囲では、時空が歪むために、あたかもそこに凸レンズがあるかのような効果が生じ、背後にある恒星や銀河などの光源の光(電磁波)が集光され増光することがあります。これが重力マイクロレンズ効果です。重力レンズ効果の1種ですが、銀河や銀河団などに比べて、恒星質量ブラックホールや恒星などの比較的に軽い天体の周囲でみられる効果です。
つまり、地球と光源の間を恒星質量ブラックホールが通過すれば、背後の光源が、一定の間、増光するために、恒星質量ブラックホールを間接的にみつけることができるというわけです。
NASAでは、このような増光は非常に稀であるために、天の川銀河を探すだけでも、何億もの恒星(光源)を長期間に渡って精密に観測する必要があるが、ローマン宇宙望遠鏡はこのような要求に十分に答えることができるだろうとしています。
Image Credit: NASA/NASA’s Goddard Space Flight Center/Conceptual Image Lab
Source: NASA
文/飯銅重幸