こちらの画像は、火星の南半球が夏の時期に周回軌道上から撮影された南極冠の一部を拡大したものです。水の氷や二酸化炭素の氷(ドライアイス)でできている火星の極冠は冬に拡大し、夏に縮小しますが、完全に消えてしまうことはありません。
アメリカ航空宇宙局(NASA)のジェット推進研究所(JPL)によると、火星の南極では夏でも水の氷の上に厚さ数kmの二酸化炭素の氷が堆積しているといいます。年中消えることがないこうした氷の堆積物は、残留極冠や残存極冠と呼ばれています。
撮影された極冠の表面には二酸化炭素が昇華したことで生じる直径数百mのくぼみが連なるように幾つも存在しており、くぼみに囲まれた部分は不規則な輪郭となめらかな表面を持つ長さ数kmのメサ(卓状台地)となっています。メサの周囲に見える暗い色合いの部分では、二酸化炭素が昇華したことで下にある水の氷が露出しているとみられています。
地表と大気を行き来する二酸化炭素の量が季節や年間を通してどれくらい変化するのかを知ることは、火星の気候を理解する上で重要です。火星の地表というと赤茶色の砂に覆われた険しく荒々しいイメージが強いのですが、極域では季節の変化にあわせて極冠が拡大・縮小することもあり、時にユニークな表情を見せてくれます。
画像はアメリカ航空宇宙局(NASA)の火星探査機「マーズ・リコネッサンス・オービター(MRO)」の高解像度撮像装置「HiRISE(The High-Resolution Imaging Science Experiment)」による2020年11月22日の観測データをもとに作成されたものです。
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Image Credit: NASA/JPL-Caltech/University of Arizona
Source: NASA/JPL
文/松村武宏