それは40秒弱の短い飛行でしたが、火星探査における大きな可能性を示した、歴史的な飛行となりました。
アメリカ航空宇宙局(NASA)のジェット推進研究所(JPL)は現地時間4月19日、火星ヘリコプター「Ingenuity(インジェニュイティ)」による初飛行が成功したと発表しました。人類史上初となる地球以外の天体における航空機の制御された動力飛行として、この飛行は歴史に刻まれることになります。
【▲ Perseveranceが撮影したIngenuity初飛行の様子(Credit: NASA/JPL-Caltech/ASU/MSSS)】
こちらの動画は、着陸地点である火星のジェゼロ・クレーターまでIngenuityを運んだ火星探査車「Perseverance(パーセベランス、パーサヴィアランス)」のカメラ「Mastcam-Z」によって、64.3m離れた場所から撮影されたIngenuity初飛行の様子です。日本時間4月19日16時34分に火星の地表を離れたIngenuityは、高度3mで30秒間のホバリングを行った後に地上へ戻りました。JPLによると、総飛行時間は39.1秒間だったとのことです。
火星の環境は地球とは異なり、地表の重力は地球の約3分の1、地表の気圧は地球の約1パーセントしかありません。Ingenuityは火星の薄い大気における動力飛行の実証を目的としており、今回の成功によって動力飛行が可能であることを証明したことになります。Ingenuityの運用チームは今回の飛行で得られたデータや撮影された画像を分析した上で、4月22日以降に実施される2回目の飛行計画を立てることにしています。
地球と火星の通信には分単位のタイムラグが生じるため、Ingenuityの飛行はあらかじめ送信されたコマンドに従い自律的に行われます。こちらの画像は飛行中に地面を追跡するためのナビゲーション用カメラによって撮影されたもので、3m下の地表に落ちたIngenuity自身の影が捉えられています。
「Ingenuityは、不可能に思える宇宙探査を実現させてきたNASAにおける最新のプロジェクトの一つです」と語るNASA長官代行のスティーブ・ユルチク氏は、後にスペースシャトルの開発にも結びついた極超音速実験機「X-15」や、火星探査車の先駆けとなった小型ローバー「ソジャーナー」(1997年7月に着陸した火星探査機「マーズ・パスファインダー」に搭載)に触れた上で、「Ingenuityが私たちをどこへ導くのかはわかりませんが、少なくとも火星の空は限界ではなさそうだということが、今日の飛行で示されました」とコメントしています。
なお、航空機や空港には国際民間航空機関(ICAO)によって固有の機種コードや空港コードが指定されています。たとえばボーイング787のICAO機種コードは派生型によって「B788」や「B789」など、東京国際空港(羽田空港)のICAO空港コードは「RJTT」となっています。Ingenuityのチーフパイロットを務めるJPLのHåvard Grip氏は、史上初めて火星を動力飛行した航空機であるIngenuityにはICAO機種コード「IGY」が、初飛行を行った場所にはICAO空港コード「JZRO」(ジェゼロ・クレーターより)が指定されたことを明らかにしました。
また、NASA科学ミッション本部副本部長のThomas Zurbuchen氏は、1903年12月に人類初の航空機による動力飛行を行ったライト兄弟にちなみ、Ingenuityが初飛行を行った場所が「ライト兄弟飛行場(Wright Brothers Field)」と名付けられたことを発表しています。
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Image Credit: NASA/JPL-Caltech
Source: NASA/JPL
文/松村武宏