ライデン大学のAlexander Bohn氏らの研究グループは、南天の「はえ座」(蠅座)の方向およそ360光年先の恒星を周回する太陽系外惑星「YSES 2b」の直接撮影に成功したとする研究成果を発表しました。系外惑星はこれまでに4300個以上が見つかっていて、木星と比べて数倍重いガス惑星もめずらしくはありませんが、研究グループはYSES 2bが投げかける謎に注目しています。
YSES 2bは木星の約6.3倍の質量がある巨大ガス惑星とみられており、ヨーロッパ南天天文台(ESO)のパラナル天文台にある「超大型望遠鏡(VLT)」の観測装置「SPHERE」を使って撮影されました。主星の「YSES 2」は若い頃の太陽によく似ているとされる恒星で、太陽の約1.1倍の質量があり、誕生してから1400万年ほどしか経っていないと推定されています。
■提唱されているモデルに合わないYSES 2b形成の謎研究グループによると、YSES 2bは主星のYSES 2から約115天文単位(※)離れたところを公転しています。木星は太陽から約5.2天文単位、太陽系の惑星で一番外側を公転する海王星は約30天文単位離れていますから、YSES 2は木星と比べて約22倍、海王星と比べて約4倍も主星から遠い軌道を周回していることになります。
※…1天文単位=約1億5000万km、地球から太陽までの平均距離に由来する
惑星は、若い恒星を取り囲むように集まったガスや塵でできた原始惑星系円盤のなかで形成されると考えられていて、木星のようなガス惑星の形成については2つのモデルが提唱されています。1つはコア集積モデルと呼ばれるもので、塵が集まって成長した原始惑星がコアとなり、円盤のガスを急速に取り込むことで形成されるというもの。もう1つは自己重力不安定モデルや円盤重力不安定モデルなどと呼ばれるもので、円盤が自身の重力で分裂して惑星が形成されるというものです。
研究グループによると、YSES 2bが現在観測されている軌道で誕生したと仮定すると、その質量や軌道はどちらのモデルにも合わないように思われるといいます。コア集積モデルの場合、YSES 2bの軌道は主星から遠いために材料となる物質が少なかったはずで、木星と比べて約6倍という質量は重すぎるといいます。いっぽう、自己重力不安定モデルの場合は反対に、木星の約6倍では軽すぎるようです。
3番目の可能性として、今よりも主星に近い軌道でコア集積モデルにより形成された後に、現在の軌道まで移動したことが考えられるといいます。ただし、その場合は未発見の別の系外惑星との相互作用を必要とするはずであり、やはり謎は残ります。
研究を率いたBohn氏は、YSES 2bをはじめとした木星に似た系外惑星をより多く調べることで、太陽に似た恒星の周囲における惑星の形成過程をさらに深く理解したいとコメントしています。
関連:63光年先の太陽系外惑星「がか座ベータ星c」の直接観測に成功
Image Credit: ESO/SPHERE/VLT/Bohn et al.
Source: Astronomie.nl
文/松村武宏