日本時間2021年5月6日朝、スペースXは開発中の大型宇宙船「スターシップ(Starship)」の無人試験機「SN15」(SNはSerial Numberの略)による5回目の高高度飛行試験を実施しました。過去4回の高高度飛行試験では着陸の成否にかかわらず機体は爆発して失われていましたが、数多くの改善が施されたというSN15は、着陸後も爆発することなく、成功裏に飛行試験を終えています。
▲スペースXが公開しているSN15飛行試験の配信アーカイブ(Credit: SpaceX)▲
今回のSN15による飛行試験は、同年3月30日に飛行した「SN11」以来の実施となります(SN12からSN14は欠番)。空一面が雲に覆われる気象条件のもと、3基の「ラプター」エンジンを点火したSN15はテキサス州ボカチカを離陸しました。
上昇中に2基のエンジンを停止させつつ目標高度の約10kmに到達したSN15は、ホバリング飛行の後に最後のエンジンを停止し、機体の姿勢を「ベリーフロップ」(belly flop、腹打ち飛び込み)と呼ばれる水平姿勢へと移行。4枚のフラップを使って機体の姿勢を制御しつつ、着陸地点に向けた降下を開始しました。
再び雲の下へと戻ってきたSN15は3基のうち2基のエンジンを再点火し、機体の姿勢を垂直に戻して着陸地点への降下を開始。コンクリートが敷かれた着陸地点へのソフトランディングに成功し、6分余りの飛行を無事に完了しました。
スターシップの高高度飛行試験は2020年12月の「SN8」から始まりましたが、これまで着陸に成功したのは2021年3月4日に飛行した「SN10」の1回のみ。SN10は着陸の数分後に爆発して機体を喪失していたため、機体を失わずに試験が成功したのは今回のSN15が初となります。
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また、今回の飛行では初めて2基のエンジンを使った着陸が行われました。SN10までの飛行試験では着陸前の姿勢変更時に2基もしくは3基のエンジンを点火してエンジンの状態を確認し、最終的には1基のエンジンのみを用いて着陸していました。しかし、過去唯一着陸に成功したSN10では最終降下時のエンジン推力が低く、接地した際の衝撃によって着陸脚など機体の一部が損傷する問題が発生。続く飛行試験では冗長性を高めるために2基のエンジンを使った着陸が試みられる予定でしたが、SN10の次に飛行したSN11はエンジン再点火直後に空中で爆発してしまったため、着陸には至りませんでした。
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スターシップは全長50m、直径9mの再利用型宇宙船です。全長70mのブースター「スーパーヘビー」と組み合わせることで、旅客輸送用のクルー型なら100名を、貨物輸送用のカーゴ型なら100トンのペイロード(人工衛星や貨物などの搭載物)を地球低軌道に打ち上げる能力を備え、軌道上で推進剤を補給することで月や火星にも飛行可能とされています。スペースXのCEOイーロン・マスク氏は、スターシップによる火星への飛行を2020年代に実施する目標を掲げています。
機体が健全なままで高度10kmへの高高度飛行試験に成功したことで、今後のスターシップによる飛行試験では目標高度の引き上げなどが行われる可能性があります。マスク氏はスターシップ試験機「SN20」とスーパーヘビー試験機「BN3」による初の軌道への打ち上げを2021年7月に行いたいとしており、これに先立ってスーパーヘビー試験機単独での飛行試験が行われることも考えられます。
スターシップは宇宙旅行にも用いられる予定で、ZOZOの元社長・前澤友作氏が8名の同乗者とともにスターシップに乗り込み、2023年に月周辺を飛行する計画が発表されています。また、アメリカ航空宇宙局(NASA)は2021年4月、月面有人探査計画「アルテミス」で用いられる「有人着陸システム(HLS:Human Landing System)」にHLS仕様のスターシップが選ばれたことを発表しています。
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Image Credit: SpaceX
Source: SpaceX
文/松村武宏