Infoseek 楽天

宇宙の大規模構造の研究にも影響? ある種の銀河はガスに隠されて見えにくい可能性

sorae.jp 2021年5月12日 20時26分

東京大学大学院の百瀬莉恵子氏らの研究グループは、初期宇宙のある種の銀河は宇宙を満たすガスの濃い部分に隠されやすく、地球からは一部の銀河が見えない可能性を示した研究成果を発表しました。研究グループによると、こうしたふるまいをする銀河はこれまで知られておらず、無数の銀河が集まっている「宇宙の大規模構造」を研究する上で注意を呼びかける成果が得られたとしています。

■ライマンα銀河は銀河間ガスに隠されやすい銀河か

今回研究グループが注目したのは、ライマンα(アルファ)輝線と呼ばれる紫外線で明るく輝く「ライマンα銀河」です。ライマンα輝線は電離した水素が電子と再結合する際に放射されるもので、星形成活動が盛んな若い銀河から強く放射されると考えられています。

研究グループは、今から110億年前の宇宙におけるライマンα銀河の周囲に存在する銀河間ガス(中性水素のガス)について、三次元の分布を調査。その結果をどの波長でもまんべんなく光る銀河(連続光銀河)および波長500nm付近の可視光線(緑色)で明るく見える銀河(可視輝線銀河)の周囲におけるガスの分布と比較しました。

その結果、連続光銀河と可視輝線銀河の周囲に存在するガスは、銀河から離れるにつれてどの方向にも同じように減っていくことがわかりました。ライマンα銀河周囲のガスの場合、視線に対して垂直な南北方向と東西方向に限っては、同じように偏りなく減っていくことがわかったといいます。

【▲ ライマンα銀河の見え方を示した模式図。観測者(左下に位置する)から見て銀河間ガスの手前にあるものは見えやすく(黄色の矢印)、ガスの高密度な部分の内部や向こう側にあるものは見えない(青色の矢印)(Credit: 東京大学)】

ところが視線方向(手前と奥)についてはライマンα銀河の周囲だけ結果が異なり、銀河の手前側(地球に近い側)はガスの密度が低く、奥側(地球から遠い側)は密度が高いことが判明しました。言い換えると、地球から観測されているライマンα銀河の分布には銀河間ガスの高密度な部分よりも手前側に存在する傾向がみられることになります。

しかし、視線方向とは地球から観測する場合の基準にすぎないことから、ライマンα銀河の周囲におけるガスの分布は何らかの理由で偏っていることが考えられます。研究グループでは、ライマンα輝線が中性水素ガスに吸収・散乱されやすいことから、銀河間ガスの高密度領域内部やその向こう側に位置するライマンα銀河がガスに隠されて見えなくなっているのではないか(研究グループは「かくれんぼ」と表現)と考えています。

■宇宙の大規模構造を研究する上で重宝されてきた銀河だった

研究グループはライマンα銀河に注目した理由として、この銀河が「宇宙の大規模構造」を研究する上で重宝されてきたことに言及しています。

宇宙には数百億~数千億もの恒星が集まってできた銀河が数多く存在していますが、銀河は無秩序に分布しているわけではなく、泡や蜘蛛の巣のような姿の構造を形作っていることが知られています。銀河の集まりが描き出す巨大な構造は大規模構造(large-scale structure)と呼ばれています。

宇宙の大規模構造は目に見える物質でできた銀河だけでなく、「暗黒物質(ダークマター)」も関与しているとみられています。誕生したばかりの宇宙では場所によって暗黒物質の密度にゆらぎ(むら)があり、高密度な部分が重力相互作用によって物質を集めてさらに密度を高めていったことで、大規模構造が形成されたというのです。銀河はこうした大規模構造を織りなすフィラメント(糸状の構造)のなかで形成・進化してきたと考えられており、大規模構造と銀河は深い関係にあるとみられています。

【▲ 現在の宇宙における大規模構造のシミュレーション(一辺の幅は約3億光年)。青色は暗黒物質、オレンジ色はガスの分布を示す(Credit: Illustris Collaboration)】

暗黒物質は電磁波で観測できない物質ですが、通常の物質である銀河は観測できるため、銀河の分布をもとにしてダークマターの大規模構造を推測することが可能です。研究グループによると、初期宇宙に存在する天体から発せられた電磁波は宇宙の膨張によって波長が伸びてしまい、波長によっては地上の望遠鏡による観測が難しくなるものの、ライマンα銀河は地上の望遠鏡でも観測しやすく研究に便利なことから多用されてきたといいます。

しかし最近になって、ライマンα銀河と他の種類の銀河では、描き出される大規模構造にずれが生じるケースが報告されるように。そこで研究グループは、ライマンα銀河は大規模構造を正しくなぞれていないのではないか、だとすればそれはなぜなのかを探るために、大規模構造を探るための別の指標である銀河間ガスの観測データを用いて今回の研究に取り組んだとしています。

研究グループは今回の成果について、ライマンα銀河が銀河間ガスや暗黒物質の分布を忠実に反映していない可能性を示すものだとしており、今後も発展途上の分野である銀河と銀河間ガスの関係について、観測データと理論データを組み合わせて研究を続けていくとしています。

 

関連:重力相互作用の影響を“巻き戻す”ことで「宇宙の大規模構造」の起源に迫る手法を検証

Image Credit: 東京大学
Source: 東京大学
文/松村武宏

この記事の関連ニュース