立教大学の坂谷尚哉氏らの研究グループは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ2」による小惑星「リュウグウ(162173 Ryugu)」の観測データを分析したところ、表面の一部で水に浮くほど密度が低い超高空隙率の岩塊(※)の存在が判明したとする研究成果を発表しました。
この岩塊について研究グループは、惑星の材料になった微惑星(初期の太陽系で形成されたとみられる直径1~10km程度の小さな天体)の特徴を色濃く残す始原的なものと考えており、「はやぶさ2」が採取したサンプルの分析に期待を寄せています。
※空隙率(くうげきりつ)…土壌や岩石などに含まれる隙間の体積割合
■水に浮くほど低密度の岩塊が2つのクレーター内部で見つかった「はやぶさ2」はリュウグウの表面からサンプルを採取するタッチダウンを2回実施しましたが、タッチダウンのリハーサルを行った時や、「MINERVA-II1」「MASCOT」といった小型のローバー/着陸機を投下した際にもリュウグウの表面に接近しています。
リュウグウの表面に接近した「はやぶさ2」が高度500m以下で取得した「中間赤外カメラ(TIR)」の観測データを研究グループが分析したところ、直径20m以下の2つのクレーターの中心付近にホットスポット(周囲と比べて温度が非常に高い部分)が存在することが明らかになったといいます。
接近運用中に撮影された「光学航法カメラ(ONC)」による高解像度画像をもとに、片方のクレーターのホットスポットについてはサイズが10cm程度の黒い岩塊の集合体であることが判明。また、「近赤外分光計(NIRS3)」の観測データは、もう片方のクレーター内部の物質が比較的近年になってから掘り起こされた物質、つまり近年まで地下に埋もれていた物質であることを示しているといいます。
発表によると、リュウグウ表面の大部分を覆う岩塊の空隙率は30~50%と推定されているのに対し、ホットスポットの黒い岩塊の空隙率は70%以上と推定されています(空隙率が高い、すなわち密度が低い岩塊ほど熱慣性が低くなるため、昼に温まりやすく夜に冷めやすい特徴があります)。この空隙率が高い岩塊の密度は約0.8g/cm3以下とされており、水に浮くといいます。発表では「かかとの角質を取る軽石のようなイメージ」と表現されています。
■初期の太陽系における微惑星の形成・進化に迫ることができる可能性リュウグウは太陽系が誕生した当初から現在のような姿だったのではなく、母天体(元になった天体)が破壊された際の破片が集まって形成されたとみられています。研究グループは、今回見つかった高い空隙率の岩塊について、太陽系初期に形成されたとみられる微惑星にもつながる情報が残されている可能性を指摘しています。
初期の太陽系ではふわふわとした塵(ダスト)が集まって微惑星を形成し、微惑星が集まって原始惑星が形成されたと考えられています。発表によると、微惑星の内部は放射性元素の崩壊による加熱や自身の重力による圧縮を受けたとみられていますが、リュウグウの母天体はこうしたプロセスがあまり進まなかった天体ではないかとする説が提唱されているといいます。
この説によると、加熱と圧縮を受ける母天体内部の大半はリュウグウの表面にみられる岩塊と同じ空隙率(30~50%)になるいっぽうで、表面に近い部分は加熱や圧縮をあまり受けずに空隙率が高く、より初期の情報を残した物質が存在していたことが想定されるといいます。破壊された母天体の破片から誕生したリュウグウは母天体のさまざまな深さにあった物質が集まってできているとみられ、空隙率が低い岩塊と高い岩塊が混ざり合っていることになります。
また、研究グループがその他の岩塊や砂地の熱慣性、反射率、色を調べたところ、大多数の普通の岩塊と今回発見された超高空隙率の岩塊が混合しているとすれば、砂地のデータを説明できることが明らかになったといいます。つまり、リュウグウの砂地には超高空隙率の岩塊の破片が含まれている可能性があり、その破片が「はやぶさ2」によって採取されたかもしれません。
研究グループは、「はやぶさ2」が採取したサンプルから超高空隙率岩塊の破片が見つかれば、リュウグウ母天体の形成・進化史が明らかになるだけでなく、誰も見たことがない微惑星の形成や進化についても大きな実証的証拠がもたらされ、太陽系形成過程の初期段階を実証することにつながるかもしれないと期待を寄せています。
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Image Credit: Sakatani et al., 2021
Source: JAXA / 立教大学
文/松村武宏