「自由浮遊惑星」(free-floating planet、rogue planet)とは、惑星として形成された後に何らかの理由で恒星から離れ、宇宙を放浪していると予想される天体です。その数は控えめな見積もりでも天の川銀河だけで1000億個を上回るといいます。
コンセプシオン大学のPatricio Javier Ávila氏やルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン(LMU)に所属する研究者らのグループは、そんな自由浮遊惑星を公転する衛星の表面に液体の水が存在する可能性を示した研究成果を発表しました。
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■宇宙線と潮汐加熱が液体の水を生成・保持している可能性研究グループが想定したのは、木星と同じ質量の自由浮遊惑星を公転する地球と同じ質量の衛星です。研究グループは、衛星が持つ大気の量や降り注ぐ宇宙線の影響といった条件が異なる4つのパターンについて、コンピューターモデルを用いて大気の熱構造をシミュレートしました。衛星の大気組成は二酸化炭素が90%、水素分子が10%と仮定されています。
その結果、条件次第では衛星の表面に液体の水が存在し得ることが示されたといいます。シミュレーションで示された水の量は地球の海水の約1万分の1ですが、地球の大気中に存在する水蒸気の量に対しては約100倍となり、生命の進化と繁栄を可能にするには十分な量だと研究グループは指摘しています。
ただし、地球と自由浮遊惑星の衛星では環境が大きく異なります。地球の場合は太陽エネルギーが地表や大気を温めると同時に、大気中で光化学反応を引き起こすことでさまざまな物質を生成していますが、前述のように自由浮遊惑星は恒星を周回していないため、エネルギー源となる恒星がありません。
研究グループは、衛星表面の水が液体の状態を保つための熱源として、木星のように巨大な自由浮遊惑星の重力がもたらす潮汐加熱(※)を想定。生み出された熱は大気の主成分である二酸化炭素がもたらす温室効果によって効果的に保持されるといいます。また、衛星の大気に入射する宇宙線が化学反応を引き起こすことで、二酸化炭素と水素分子から水やその他の物質が生成されると考えられています。
※…別の天体の重力がもたらす潮汐力によって天体の内部が変形して加熱される現象
なお、2020年にはフロリダ工科大学のManasvi Lingam氏とハーバード大学のAbraham Loeb氏が、自由浮遊惑星の表面に液体の水やメタンが存在する可能性を示した研究成果を発表しました。両氏は恒星に代わるエネルギー源として、自由浮遊惑星の内部に存在する放射性元素の崩壊熱を想定しています。
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また、身近な太陽系では木星や土星を周回する氷が豊富な衛星において、潮汐加熱を熱源とした内部海が外殻の下に存在する可能性が指摘されています。地球には似ていないとしても、この宇宙では液体の水が存在する天体はありふれているのかもしれません。
Image Credit: Tommaso Grassi / LMU
Source: LMU
文/松村武宏