こちらは「ケンタウルス座」の方向およそ4億5000万光年先にある銀河団「Abell(エイベル)S0740」です。画像には中央左上で目立つ「ESO 325-G004」のような楕円銀河や渦巻銀河などが数多く写っていて、さながら銀河を集めた宝石箱のようです。
実は、この宝石箱には1つの「リング」が隠されています。ESO 325-G004の中央付近を拡大してみると、銀河の中心を取り巻くように輝く円弧状の光が見えてきます。これは、重力によって光の進む向きが曲げられることで生じる「重力レンズ効果」を受けて歪んだ遠方の銀河の姿。ESO 325-G004の重力によってその向こう側にある銀河から発せられた光の進む向きが曲がり、地球からは円弧状に歪んで見えているというわけです。
重力レンズ効果が生み出した像のなかでもこのようにリング状に見えるものは、一般相対性理論にもとづいて重力レンズ効果を予言したアルベルト・アインシュタインにちなんで「アインシュタインリング」と呼ばれています。いっぽう、遠方銀河の像がリング状ではなく分裂して見えるものは「アインシュタインの十字架」とも呼ばれています。
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ESO 325-G004は重力レンズ効果をもたらす銀河としては地球から比較的近いところにあるため、一般相対性理論の検証にも利用されています。2018年にポーツマス大学のThomas Collett氏らの研究グループは、ヨーロッパ南天天文台(ESO)の「超大型望遠鏡(VLT)」と「ハッブル」宇宙望遠鏡を使ってESO 325-G004とアインシュタインリングを観測した結果、重力は太陽系より大きな銀河のスケールでも一般相対性理論の予測通りにふるまっていることが確認されたとする研究成果を発表しています。
冒頭の画像はハッブル宇宙望遠鏡の「掃天観測用高性能カメラ(ACS)」による可視光線と赤外線の観測データをもとに作成され、2007年2月に公開されています。また、VLTの観測装置「MUSE」による観測データを含むアインシュタインリングの画像は2018年6月に公開されたものです。
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Image Credit: NASA, ESA, and The Hubble Heritage Team (STScI/AURA)
Source: ESA/Hubble / STScI
文/松村武宏