米国スタートアップ企業のBenchmark Space Systems社(以下、Benchmark社)は、宇宙空間で「MaaS(Mobility-as-a-Service)」事業を開始すると発表しました。
MaaSとは、異なる事業者が運営する移動手段(タクシー、電車、バス等)を1つに統合し、ユーザーがどの手段を利用するかを意識することなく、効率的かつ便利に移動できるサービスを指します。Benchmark社はコスト効率の高い推進システムのソリューションを小型人工衛星用に提供してきました。同社が今回発表した宇宙MaaS事業はタクシー事業に似ており、人工衛星や宇宙船が消費する推進剤の量に応じた料金が宇宙事業者に対して請求されるといいます。
Benchmark社が宇宙MaaS事業に着目した背景には、軌道上で人工衛星の保守・組み立て・製造を行う「OSAM」(On-Orbit Servicing, Assembly, Manufacturing、以下「軌道上サービス」)の需要の高まりがあるといいます。静止軌道上を移動する人工衛星の保守、地球外生命体を探査するための宇宙望遠鏡の組み立て、火星などの遠方に向かう宇宙船の燃料補給や修理といった軌道上サービスを提供する上で、必要になる推進剤の量は不確定だといいます。同社は消費する推進剤の量に応じて支払う従量制を採用することで、長期契約でスラスターを供用するケースのわずか10%で支払いが済むといいます。これにより宇宙事業者は他の事業に投資を回せ、本業で収益を得ながら推進剤に対してオンデマンドで支払いを行えるというのが、同社が考案した宇宙MaaS事業のビジネスモデルです。
今回、Benchmark社の宇宙MaaS事業の最初の取引先は、スペースデブリ(宇宙ゴミ)への衝突事故の防止ソリューションに着手するSCOUT社と、軌道上で燃料補給サービス展開を目指すOrbit Fab社です。こうした軌道上サービス関連事業者は、現状より多くの人工衛星や宇宙船に対応すること求めているといいます。
宇宙事業において、技術面でのイノベーションはこれまでに幾度も起こったものの、ビジネス面でのイノベーションは十分ではなかったといいます。Orbit Fab社の事業開発部長であるAdam Harris氏は「Benchmark社が目をつけた宇宙MaaS事業により宇宙ビジネスは激変するだろう」と予測しています。
Benchmark社は、小型人工衛星の相乗りを実現するSpaceX社の「Transporter2」ライドシェアミッション(2021年6月30日打ち上げ予定)にて、自社が開発した過酸化水素を用いた無毒の化学推進システム「Halcyon」を初披露する予定です。
Image Credit: Benchmark
Source: SPACENEWS, Via Satellite
文/Misato Kadono