東京大学大学院の大城勇憲氏をはじめ、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、立教大学、カリフォルニア工科大学などの研究者らが参加する国際共同研究チームは、後述する「Ia型」の超新星爆発を起こして「3C 397」と呼ばれる超新星残骸を残した白色矮星について、爆発の直前における中心密度を推定することに成功したとする研究成果を発表しました。今回の成果は、銀河までの距離を測定する際に用いられている「宇宙のものさし」の精度を高めることにつながると期待されています。
今回、研究チームは欧州宇宙機関(ESA)のX線観測衛星「XMM-Newton」を使って3C 397を観測しました。超新星爆発が起きると様々な元素が放出されますが、観測の結果、3C 397の一部で鉄やニッケルに対するチタンやクロムの比率(質量比)が異常に高い領域が見つかりました。研究チームによると、Ia型超新星やその超新星残骸からチタンが検出されたのは初めてのことだといいます。
研究チームは、チタン50(50Ti)やクロム54(54Cr)といった中性子が過剰な(原子核に存在する陽子よりも中性子のほうが多い)チタンやクロムの同位体に着目しました。これらの同位体は、超新星爆発を起こす前の白色矮星の中心密度が高いほど生成されやすくなるといいます。
この特性を用いて、3C397を生み出した白色矮星の中心密度を研究チームが割り出したところ、一般的なIa型超新星爆発を起こす白色矮星の中心密度と比べて約3倍も高かったのです。これは、宇宙のものさしとして用いられるIa型超新星がバラエティに富んでいることを示唆しています。
白色矮星は質量が太陽の8倍以下で超新星爆発を起こさない恒星が進化した姿であり、地球くらいのサイズで太陽ほどの質量を持つ高密度な天体だと考えられています。その質量にはチャンドラセカール限界質量(白色矮星の限界質量、太陽の約1.4倍)と呼ばれる上限があることが知られていて、この上限を超えた白色矮星は炭素の暴走的な熱核反応を起こし、爆発して星全体がバラバラになってしまうと考えられています。
白色矮星の質量が限界を超えた時に起こす爆発は「Ia型超新星」と呼ばれていて、連星系を成している白色矮星に伴星からガスが降り積もることで起きると考えられています。なお、質量が太陽の8倍以上ある恒星が起こす超新星爆発は「II型超新星」と呼ばれています。
Ia型超新星は最大光度(絶対等級)が他の天体に比べて比較的均一とされていることから、宇宙論研究の道具として重宝されています。なぜかというと、絶対的な明るさがわかっている天体を観測した場合、観測される見かけの明るさをもとに、その天体までの距離を割り出すことができるからです。このような天体は「標準光源」と呼ばれています。Ia型超新星は非常に明るく、遠くの銀河までの距離を測る標準光源として利用することが可能であるため、古くから宇宙膨張の速度を表す「ハッブル定数」の測定に用いられてきました。
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しかし、このように重要な天体でありながら、Ia型超新星の最大光度が均一になる理由は未だ謎のままです。また、最近では質量や中心密度が異なる様々な白色矮星がIa型超新星を起こす可能性が指摘されており、宇宙の距離を測定するための基準となる「ものさし」としてのIa型超新星の信頼性を再検証する必要性に迫られていたといいます。
研究チームは今後、3C 397以外のIa型超新星についても今回と同様の観測を行うことで、標準光源として確実に利用できるIa型超新星の特徴を明らかにしていく予定です。
※掲載当初、研究チームの代表者名を誤って記載していました。訂正の上、お詫び申し上げます。(2021年7月5日追記)
Image Credit: ISAS/JAXA, Ohshiro et al.
Source: 立教大学
文/sorae編集部