6月28日から7月2日にかけて開催された欧州天文学会年次大会で、世界最大級の電波望遠鏡「スクエア・キロメートル・アレイ」(SKA: Square Kilometer Array)が建設フェーズへと移行することが発表されました。銀河の進化、ダークエネルギー(暗黒エネルギー)、宇宙最初の星やブラックホールの誕生といった謎の解明を目的に建設されるSKAですが、2つの問題に直面しているようです。
SKAは1つのアンテナで構成される「単一鏡」の電波望遠鏡ではなく、複数のアンテナで受信した電波を干渉させることで高い空間分解能を実現する「電波干渉計」に属するもので、その名が示すように1平方kmもの集光面積をもつ電波望遠鏡です。
アンテナの建設予定地は2カ所に分かれていて、オーストラリアのマーチソン州には50~350MHzの周波数帯で観測する13万基以上の低周波帯アンテナ(SKA-Low)が、南アフリカのカルー地域には350MHz~15.3GHzの周波数帯で観測する197基の中周波帯アンテナ(SKA-Mid)が最終的に建設される予定です。計画には日本をはじめ16カ国が正式メンバーもしくはオブザーバーとして参加しています。
SKAが直面する問題の1つは、衛星コンステレーションとの干渉です。高度2000kmまでの地球低軌道(LEO)では米国のOneWeb社やSpaceX社が通信サービス事業の展開を目的とした衛星コンステレーションの構築を進めており、人工衛星の数は最終的に数万機にも及ぶといいます。
これに加えて、中国も1万3千機の人工衛星からなる衛星コンステレーション計画を提案しています。こうした人工衛星の多くが発する電波は南アフリカのSKA-Midが観測に使用する周波数帯と重なることから、SKAとの干渉が懸念されています。
この問題に関してSKA天文台のFederico Di Vruno氏は、人工衛星による干渉を同定し取り除く技術を開発したと発表しました。これにより観測時間のロスが発生するものの、OneWebやSpaceXの衛星コンステレーションによる干渉はSKAによる観測の4%未満を占めるにすぎないといいます。将来的にはアンテナ付近を通過する際に衛星の電波送信を止めることも提案されています。
もう1つの問題は資金調達です。SKA計画では2つのエリアにアンテナを設置するためにかかる費用がすでに約24億ドルに及んでいるといいます。更なる資金調達が必要だというものの、メンバー国の判断次第では断念する可能性もあるといいます。とくに、SKA計画の初期段階で関わっていた米国は資金の約3分の1を負担することが期待されていましたが、2010年の天文学調査でSKA計画は優先されなくなり、別の地上望遠鏡に対して多くの資金調達を行うことを決めています。
SKAは2029年までの完成を目指しています。
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Image Credit: SKA Observatory
Source: SPACENEWS
文/Misato Kadono