「ケンタウルス座」の方向およそ1200万光年先にある銀河「ケンタウルス座A」は、大規模なジェット構造を持ち強い電波を放つ電波銀河のひとつです。ジェットは銀河の中心にある超大質量ブラックホールが噴出させていると考えられていて、ケンタウルス座Aに存在するとみられる超大質量ブラックホールの質量は太陽の5500万倍と推定されています。
今回、国際共同プロジェクト「イベントホライズンテレスコープ(EHT)」によって、ケンタウルス座Aから噴出するジェットの根元がこれまでになく高い解像度で観測され、その特徴が明らかになりました。EHTは「おとめ座」の楕円銀河「M87」の中心に存在する超大質量ブラックホールを撮影したことで知られています。研究成果はマックスプランク電波天文学研究所のMichael Janssen(ミヒャエル・ヤンセン)氏らの研究グループによって論文にまとめられました。
こちらは様々な手段によって観測されたケンタウルス座Aを示した画像です。左上は電波で観測されたジェットの全体像で、天球上における見かけのサイズは満月の16倍にも達します。画像の右上と右中は過去のケンタウルス座Aの観測例を示したもので、左上のジェット全体像に対する倍率は右上が40倍(可視光・X線・電波で観測)、右中が16万5000倍(電波で観測)となっています。
そして今回、世界各地の8つの電波望遠鏡が連携したEHTによる観測(画像下)ではジェットの根元が6000万倍の倍率で捉えられ、その姿を詳細に描き出すことに成功したとされています。画像を見ると、左上と右下に向かって噴出するジェットは中央よりも端の部分のほうが電波で明るくなっていることがわかります。
なお、スケールバーが示す「1光日」とは光が1日で進む距離(約260億km)のことで、太陽から地球までの距離の約173倍に相当します。今回の研究を率いたJanssen氏は「これにより初めて、光が1日で移動する距離よりも小さいスケールで銀河系外の電波ジェットを研究することができます」と語っています。
ブラックホールは周囲の物質をすべて引き寄せてしまうイメージがありますが、物質の一部はブラックホールへ落下せずにジェットとして放出されています。発表によると、ジェットが光速近くにまで加速されたり、消散せずに銀河自身よりも巨大なスケールまで広がったりする仕組みはあまり理解されておらず、EHTはこの謎の解明を目指しているといいます。
前述のように、EHTによるケンタウルス座Aの観測では、ジェットの中央よりも端のほうが明るいことが示されました。中央と端で明るさに差が生じる現象は他のジェットでも知られていたものの、ここまで顕著な差が見られたことはなかったといいます。この特徴はブラックホールによって生成されるジェットを理解する上で重要なものとみなされており、ヴュルツブルク大学のMatthias Kadler(マチアス・カドラー)氏は「ジェットの端が明るくなる現象を再現できない理論モデルを除外することができます」と語っています。
また、EHTによる観測の結果、ケンタウルス座Aの超大質量ブラックホールが存在するとみられる領域が特定されました。その実現には宇宙からの観測が必要とされていますが、将来この領域をより短い波長、より高い解像度で捉えることで、ケンタウルス座Aの超大質量ブラックホールを撮影できることが期待されています。
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Image Credit: R. Bors; CSIRO/ATNF/I. Feain et al., R. Morganti et al., N. Junkes et al.; ESO/WFI; MPIfR/ESO/APEX/A. Weiß et al.; NASA/CXC/CfA/R. Kraft et al.; TANAMI/C. Müller et al.; EHT/M. Janßen et al.
Source: 国立天文台 / マックスプランク電波天文学研究所
文/松村武宏