「ハッブル」宇宙望遠鏡を運用するアメリカの宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)は現地時間7月19日、1か月以上に渡り中断されていた科学観測を再開したばかりのハッブル宇宙望遠鏡によって撮影された銀河の画像2点を公開しました。
こちらはそのうちの1点で、およそ2億9700万光年先にある相互作用銀河「ARP-MADORE2115-273」を捉えた画像です。相互作用銀河とは互いに重力の影響を及ぼし合っている複数の銀河のことで、そのなかには潮汐力によって大きく引き伸ばされていたり、笑顔や鳥を思わせる不思議な姿に見えたりするものもあります。
STScIによると、ARP-MADORE2115-273は2つの銀河の正面衝突によってリング状になった環状銀河だと以前は考えられていたといいますが、ハッブルによって撮影された画像は、より複雑な相互作用が進行中であることを示しています。
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もう1点は、およそ4億9000万光年先にある渦巻銀河「ARP-MADORE0002-503」を捉えた画像です。STScIによると、渦巻銀河や棒渦巻銀河の大半は偶数の渦巻腕を持つものの、ARP-MADORE0002-503は3本の渦巻腕を持っており、その腕は私たちが住む天の川銀河の3倍に相当する半径約16万3000光年に渡って広がっているといいます。
2点の画像は、いずれもワシントン大学のJulianne Dalcanton氏が率いる研究プログラムのもとで撮影されました。科学観測に復帰したハッブル宇宙望遠鏡は、このほかにも他の銀河に存在する球状星団や木星のオーロラなどの観測を行ったとのことです。
ハッブル宇宙望遠鏡に搭載されているすべての科学機器は、科学機器を制御・調整するペイロードコンピューターが6月14日に停止したことで、自動的にセーフモードへ切り替えられていました。運用チームによる原因の特定と対策の実施が実を結び、ハッブル宇宙望遠鏡は日本時間7月18日2時18分から科学観測を再開しています。
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なお、アメリカ航空宇宙局(NASA)によると、ハッブル宇宙望遠鏡を復旧させるにあたり、打ち上げから31年という長い期間を通してハッブルに関わった様々なスタッフの知識と経験が活かされたといいます。
たとえば、ハッブルの製造に協力した元スタッフには、「SI C&DH(Science Instrument Command and Data Handling、科学機器コマンドおよびデータ処理)」ユニットと呼ばれるハードウェアに関する詳細な知識がありました。SI C&DHユニットには今回の観測中断の発端となったペイロードコンピューターが組み込まれています。また、別の元スタッフは30~40年前に作成されたドキュメントを精査することで、問題解決に向けて前進する運用チームの助けとなりました。
STScIの所長を務めるKenneth Sembach氏は、ハッブルの復旧という共通の目的のもとで1か月に渡り献身的に取り組んできた運用チームの高い能力が再び示されたと言及した上で、「ハッブル宇宙望遠鏡がさらに多くの発見をもたらし、私たちを驚かせ続けることを期待しています」とコメントしています。
Image Credit: NASA, ESA, STScI, Julianne Dalcanton (UW), Processing: Alyssa Pagan (STScI)
Source: STScI / NASA
文/松村武宏