こちらは火星の南半球にあるグリンガウツ・クレーター(Gringauz、直径約71km)内部の中央やや西寄りに位置する、さらに小さなクレーターとみられる地形です。色は人の目で見た自然な色合いではなく、擬似的に着色されています。天体衝突によって形成されたクレーターは円形の縁(外輪山)に囲まれた内部が凹んでいることが多いのですが、このクレーターの場合はその逆で、円形のクレーターの底が周囲の地表よりも高くなっているのがわかりますでしょうか。
どうしてクレーターのほうが周囲よりも高いのか、その理由は侵食作用にあるようです。クレーターが形成されると内部に砂などが堆積していきますが、このクレーターでは堆積物が徐々に硬くなっていき、侵食されにくくなったと考えられています。やがてクレーターとその周辺が侵食されて地形が変化したものの、クレーター内部の堆積物は周囲よりも侵食されにくかったため、まるで地形が反転したように堆積物の部分だけが円形に取り残されたのではないか、というわけです。
なお、同時に撮影された周辺の他のクレーターはこのような地形にはなっていないことから、このクレーター内部に堆積物がたまり、侵食されて反転したような地形になった後で、他のクレーターが形成されたのではないかとみられています。
冒頭の画像はアメリカ航空宇宙局(NASA)の火星探査機「マーズ・リコネッサンス・オービター(MRO)」の高解像度撮像装置「HiRISE」(The High-Resolution Imaging Science Experiment)による2015年11月18日の観測データをもとに作成されたもので、HiRISEの今日の一枚「An Inverted Crater」として2020年6月5日付で公開されています。
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Image Credit: NASA/JPL-Caltech/University of Arizona
Source: アリゾナ大学 / NASA/JPL
文/松村武宏