有名な流星群、とくに「三大流星群」と呼ばれる「しぶんぎ座流星群」「ペルセウス座流星群」「ふたご座流星群」の極大日が近づいてくると、ニュースやSNSなどで、例えば「最大で1時間に約100個の流星が出現する」と書かれていることがよくあります。
そのため、ピーク時には、蚊などの虫に刺されること(冬ならば寒さに耐えること)や夜間の危険性を顧みず、ワクワクしながら出かける人も少なくないことでしょう。しかし、「100個どころか数個も見えなかった!」とがっかりしてしまう場合が多いのです。
問題は、1時間に100個というのは流星を研究している科学者の理論上の数字であり、実際に人々が見ることができるかどうかはわからないということです。1980年代、流星研究者たちは、世界中のさまざまな個人やグループが観測した流星群の割合を比較する方法を模索していました。流星群の観測率は報告されていましたが、空の状態、放射高度、観測者の視力などのちがいにより、流星群の活動を包括的に把握することは困難でした。
そこで流星研究者たちは、「天頂出現数」(ZHR:Zenithal Hourly Rate)という概念を考え出しました。ZHRとは、観測された出現数(1時間あたりの流星の数)を空の状態、地平線上の放射点の高度、観測者の偏りなどで補正したものです。つまり、完璧な空の下、流星群の放射点が真上(天頂)にある状態で、完璧な観測者が見た場合の値ということになります。
しばしば引用されるZHRは、人々が実際に見ることのできる流星の出現数を過大評価しており、時にはそれが大きくなることもあります。
幸いなことに、ZHRをもとにして、特定の場所や状況における1時間あたりの流星の出現数を算出することができます。NASAは、アメリカ国内の特定の場所での算出を行い、次のような3つのマップを作成して比較しました。これらのマップは、ペルセウス座流星群がピークの夜に、空に雲がない場合に予想される1時間あたりの出現数を示しています。
1.天の川や星がたくさん見える田舎の場合
つまり、1時間に100個のペルセウス座流星群が見られるのではなく、アメリカでは、ピーク時の夜明け前の1時間に40個前後のペルセウス座流星群が見られると考えてよいでしょう。これは、数分に1個の割合で見られることになり、悪くありません。しかし、ここでは都市部や郊外から離れた田舎にいることを想定しています。
2.北斗七星が見える程度の郊外の場合
郊外の明るい空は、出現率を大きく下げてしまいます。田舎では2〜3分に1個だった流星数が、6〜7分に1個になり、3分の1ほどに減りました。1分に1個以上の流星を期待して外に出ても、1時間に10個以下しか見られないのですから、ペルセウス座流星群を気軽に見ている人の多くががっかりするのも無理はありません。
3.星がほとんど見えない都会の場合
都市部では、ゼロに近いと言ってよいでしょう。都会に住んでいる人は、1時間でペルセウス座流星群を1、2個見ることができるかもしれません。唯一の良いニュースは、都会の人がペルセウス座流星群を見たとしたら、それは本当に明るくて素晴らしい流星にちがいないということです。
流星観測は、空の明るさにかかっています。流星群が見たければ、光から逃れ、暗闇の中に出かけてください。それだけの価値があります!
あらためて冒頭の画像を見てください。
昨年(2020年)のペルセウス座流星群を撮影したもので、スロバキアの非常に暗い空で撮影した画像(左)と、チェコの中程度の暗さの空で撮影した画像(右)を合成してあります。左の画像にはペルセウス座流星群がはっきりと写っています。しかし、右の画像では流星の明るさや数が減っているように見えます。
つまり、光害によって、多くの微弱な流星が空から失われているのです。
Image Credit: Tomas Slovinsky (Slovakia) & Petr Horalek (Czech Republic; Institute of Physics in Opava)
Source: NASA、APOD
文/吉田哲郎