こちらは「うみへび座」の方向およそ1億3000万光年先にあるレンズ状銀河「NGC 4993」です。レンズ状銀河は渦巻銀河と楕円銀河の中間にあたる形態の銀河で、渦巻銀河と同じように扁平な姿をしているものの、渦巻腕や棒状構造のような目立った構造はありません。画像のNGC 4993も、塵が集まったダストレーン(ダークレーン)や同心円状の淡いシェル構造はみられますが、渦巻腕は見当たりません。
そんなNGC 4993は、ある現象が観測された銀河として知られています。2017年8月17日、アメリカの重力波望遠鏡「LIGO」(ライゴ、ワシントン州とルイジアナ州の2か所にレーザー干渉計を建設)と欧州の重力波望遠鏡「Virgo」(ヴァーゴ、イタリアに建設)が重力波を検出。その2秒後、アメリカと欧州の宇宙望遠鏡が同じ方向から飛来したショートガンマ線バーストを検出しました。重力波とガンマ線の発生源を捜索したところ、対応する天体からの光がNGC 4993で観測されたのです。
後に、この重力波は連星中性子星が合体した際に発せられたものであり、あらゆる波長で観測された電磁波は中性子星どうしの合体にともなう爆発現象「キロノバ」にともなって放出されたことが判明しました。冒頭の画像を見るとNGC 4993の中心から左上の位置にオレンジ色の光点が写っていますが、これが捉えられたキロノバの光です。
キロノバでは金やウランのように鉄よりも重い元素が生成される「r過程」と呼ばれる元素合成のプロセスが起きると考えられていましたが、観測結果は理論上の予測とよく一致しており、実際にキロノバによって生成されたとみられるストロンチウム(Sr)の痕跡も見つかっています。
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冒頭の画像はキロノバの観測に参加した「ハッブル」宇宙望遠鏡の「広視野カメラ3(WFC3)」および「掃天観測用高性能カメラ(ACS)」による可視光線と赤外線の観測データから作成されたもので、欧州宇宙機関から2017年10月16日付で公開されています。
Image Credit: NASA and ESA
Source: ESA/Hubble
文/松村武宏