今から840年前の西暦1181年8月、カシオペヤ座の方向に土星と同じくらい明るい「客星」が出現しました。翌1182年の2月まで半年間に渡り輝き続けたという客星は、藤原定家の「明月記」をはじめ、日本や中国の文献に記録が残されています。当時記録された客星は超新星だったと考えられていますが、香港大学のAndreas Ritterさんたちの国際研究グループは、この「1181年の超新星」によって誕生した天体を特定したとする研究成果を発表しました。
■1181年の超新星は「Iax型超新星」だった可能性今回1181年の超新星「SN 1181」との関連が指摘されたのは「IRAS 00500+6713」または「2MASS J00531123+6730023」と呼ばれる星で、研究グループから「Parker’s star(パーカーの星)」と名付けられました。
研究グループによると、パーカーの星は表面温度が摂氏20万度以上に達するほど高温で明るく輝く「ウォルフ・ライエ星」というタイプの星で、その周囲を主にネオン(Ne)でできたかすかな星雲「Pa 30」が取り囲んでいます。Pa 30の膨張速度は秒速約1100kmとされており、ここから星雲の膨張が始まった時期を逆算すると770~1270年前となるため、SN 1181が観測された時期に一致するのだといいます。
パーカーの星とPa 30は、2つの白色矮星が合体した際に発生した「Iax型超新星」の後に残された天体だと考えられています。Iax型超新星は白色矮星が関与する「Ia型超新星」(※)と比べて明るさが暗いとされる超新星です。研究グループはパーカーの星について、白色矮星の合体によって誕生したことが知られている唯一のウォルフ・ライエ星だとしています。
研究グループがパーカーの星およびPa 30までの推定距離(約7500光年)や「土星と同じくらいの明るさ」という当時の記録をもとにSN 1181の絶対等級を求めたところ、典型的な超新星と比べればかなり低いものの、Iax型超新星の範囲とは一致するマイナス14~12.5等という値が算出されました。研究に参加したマンチェスター大学のAlbert Zijlstraさんは「全体の10パーセントほどでしかないIax型超新星は、あまり理解が進んでいません。SN 1181の明るさや非常にゆっくりとした減光は、このタイプに一致します」と語ります。
※…白色矮星にガスが降り積もって一定の質量(太陽の約1.4倍、チャンドラセカール限界と呼ばれる)を超えたり、白色矮星どうしが衝突したりしたときに発生すると考えられている
■パーカーの星とPa 30は年齢や位置などがSN 1181の条件によく合う1181年の超新星については、これまでカシオペヤ座の方向にある超新星残骸「3C 58」が対応する天体ではないかと考えられていました。しかし研究グループによると、20年以上に渡る電波観測のデータをもとにした残骸の推定年齢(7000年)や、3C 58に存在するパルサーの自転速度をもとに推定された年齢(5400年)は、3C 58とSN 1181の関連性に疑問を投げかけていたといいます。
また、SN 1181が観測された推定位置には3C 58よりもパーカーの星およびPa 30のほうが近く、当時の中国で用いられていた星官(現在の88星座のように天球上の恒星をグループ化したもの)との位置関係もよく合うことから、研究グループはパーカーの星とPa 30がSN 1181に対応する天体だと結論付けました。
Zijlstraさんは「年齢、位置、明るさ、記録に残っている観測された期間といった情報をすべて組み合わせると、パーカーの星とPa 30がSN 1181に対応していることがわかります」と語っています。研究グループはSN 1181について、超新星の後に残された星や星雲の詳細な観測が可能な唯一のIax型超新星であり、科学的・歴史的に大変興味深い観測対象だとしています。
関連:寿命が約1万年しかない!白色矮星の合体で誕生した「ネオン光」を放つ新種の天体
■この記事は、Apple Podcast科学カテゴリー1位達成の「佐々木亮の宇宙ばなし」で音声解説を視聴することができます。
Image Credit: Ritter et al.
Source: 香港大学 / マンチェスター大学
文/松村武宏