沖縄科学技術大学院大学(OIST)のタパン・サブワラ(Tapan Sabuwala)さんをはじめとした国際研究グループは、日米の小惑星探査機がサンプル採取を実施した小惑星「リュウグウ」や「ベンヌ」の特徴的な形状について、瓦礫が集積した形成当初の段階からすでに形作られていた可能性を示す研究成果を発表しました。
■砂や砂糖を扱う物理モデルでリュウグウやベンヌの形状を説明こちらは宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ2」が訪れた小惑星リュウグウ((162173) Ryugu、直径約900m)と、アメリカ航空宇宙局(NASA)の小惑星探査機「OSIRIS-REx(オシリス・レックス、オサイリス・レックス)」が訪れた小惑星ベンヌ((101955) Bennu、直径約500m)の比較画像です。いずれも赤道部分の標高が高い「そろばん玉」に例えられる形状をしています。
リュウグウとベンヌは母天体(ある天体の元になった天体)の破片がゆるく集積してできた「ラブルパイル天体」とみられています。どちらも一旦は球形の小惑星として形成されたものの、ゆるく集まった瓦礫が自転にともなう遠心力によって赤道付近へと徐々に集まったことで、現在のそろばん玉のような姿になったと考えられてきました。当初、そろばん玉の形に変わるまでには数百万年の期間を要したと考えられていましたが、クレーターの形成年代やシミュレーションの結果をもとに、100万年未満という天文学的には短い期間だったとする研究成果が2020年に発表されています。
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いっぽう、サブワラさんは、リュウグウやベンヌの形状を説明する従来のモデルについて「物質の堆積という重要な要素が欠けている」と指摘します。サブワラさんによると、従来のモデルを使ったシミュレーションでは小惑星がそろばん玉の形(サブワラさんたちは「ダイヤモンド形」と表現)にはならず、平坦な形や非対称な形になってしまうのだといいます。
そこでサブワラさんたち研究グループは、小惑星の形状を説明するために砂や砂糖といった粒状体の堆積を扱う単純な物理モデルを用いました。地球上では、砂や砂糖は円錐形の山を形作るように堆積します。この概念を応用した研究グループによると、小惑星の両極付近では赤道付近と比べて自転にともなう遠心力が弱いために物質が蓄積されやすく、両極付近が隆起した独特の形状になるといいます。
つまり、リュウグウやベンヌは形成後に赤道付近が隆起した形へと徐々に変わっていったのではなく、形成の初期段階ですでにそろばん玉の形だったというのです。モデルの正確さを確認するために研究グループがシミュレーションを実施したところ、シミュレーション上で形成された小惑星はそろばん玉の形になったといいます。実際のベンヌとシミュレーションで形成された小惑星を比べてみると(次の画像)、両者の形状はとてもよく似ています。
研究に参加した沖縄科学技術大学院大学のピナキ・チャクラボルティ(Pinaki Chakraborty)さんは「単純なアイディアで複雑な問題を解明できたことが、私たちにとって、この研究の最も素晴らしい側面でしょう」と語っています。
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Image Credit: 沖縄科学技術大学院大学
Source: OIST (1), (2)
文/松村武宏