こちらの画像、表面に無数のクレーターが刻まれた天体は地球の月のようですが、実は太陽系で最も太陽に近い惑星である水星を捉えたものです。日本時間2021年10月2日朝、欧州宇宙機関(ESA)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)の水星探査ミッション「BepiColombo(ベピ・コロンボ)」の探査機が、いよいよ探査対象である水星に初めて接近しました。
ベピ・コロンボは、日本の水星磁気圏探査機「みお(MMO:Mercury Magnetospheric Orbiter)」と、欧州の水星表面探査機「MPO(Mercury Planetary Orbiter)」の2機による水星探査ミッションです。ここに両探査機の水星周回軌道投入前までの飛行を担当する欧州の電気推進モジュール「MTM(Mercury Transfer Module)」が加わり、現在3機の機体は縦に積み重なった状態で飛行を続けています。冒頭の画像は、電気推進モジュール(MTM)に搭載されている3台のモニタリングカメラの1つを使って撮影されました。
日欧の探査機は水星の周回軌道へ入る前に合計6回の水星スイングバイ実施を予定しています。スイングバイとは天体の重力を利用して探査機の軌道を変更する手法のことで、スイングバイを利用しない場合と比べて探査機に搭載する推進剤を減らせるメリットがあります。
ベピ・コロンボの探査機はすでに1回の地球スイングバイ(2020年4月)と2回の金星スイングバイ(2020年10月、2021年8月)を完了しており、今後は探査対象である水星を利用したスイングバイを繰り返すことで軌道を少しずつ変更し、4年後の2025年12月5に水星の周回軌道へ入る予定です。今回実施されたのは1回目の水星スイングバイで、ESAによると探査機は日本時間10月2日8時34分に水星表面から199kmまで接近しました。
水星の夜側を通過した探査機は最接近前後の画像を取得するのに条件が良くなかったようで、冒頭の画像は最接近から10分後の日本時間10月2日8時44分に高度2418kmから撮影されています。次に掲載した注釈付き画像で示されているように、画像にはカルヴィーノ・クレーター(Calvino、直径67km)、レールモントフ・クレーター(Lermontov、直径166km。図ではLemontovと表記されている)、ルーダキー・クレーター(Rudaki、直径124km)などが捉えられています。
また、次に掲載した画像は最接近6分後の日本時間10月2日8時40分に撮影されたもので、冒頭の画像よりも1200kmほど低い高度1183kmから撮影されています。カメラの視野の右上に写っている水星の表面には、長さ250kmに及ぶ南半球のアストロラーベ断崖(Astrolabe Rupes)が写っています。
ESAによると、水星にはこうした断崖が全球規模で分布しており、水星が冷えるにつれて収縮していることの証拠とみなされています。今回撮影されたような長く伸びた影が写る画像は、水星の地殻変動の歴史を研究する科学者が地形の特徴を詳しく調査する上で役立つといいます。
今回の水星スイングバイは、ベピ・コロンボ探査機の打ち上げから水星周回軌道投入までの7年に渡る長い旅路における一つの通過点です。前述のように、探査機は水星スイングバイをあと5回繰り返さないと水星の周回軌道に入ることができません。日欧の水星探査機による次の水星スイングバイは、2022年6月23日が予定されています。
わたしの観測も終わって、1回目の水星スイングバイ運用が無事に完了!
次に水星に帰ってくるのは来年の6月だねっ
たくさん応援してくれてありがとう!
私たちの観測結果はまたお伝えするね!
わたしたちの旅はまだまだ続くから、これからもヨロシク!#BepiColombo #MercuryFlyby #みお pic.twitter.com/2rhckVJDAo
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Image Credit: ESA/BepiColombo/MTM
Source: ESA
文/松村武宏