もしもあなたが望遠鏡で夜空を観察している時にこのような天体を目にしたら、これは何だと思うでしょうか。まるで鏡に映したように対称的で、直線状の構造を持つ不思議な姿。「ハッブル」宇宙望遠鏡の観測データからこの天体を発見したシャウニー州立大学(オハイオ州、アメリカ)の天文学者Timothy Hamilton(ティモシー・ハミルトン)さんは「困惑しました」と振り返ります。
今回、発見者のHamiltonさんにちなんで「Hamilton's Object(ハミルトンの天体)」と呼ばれているこの天体についての研究成果が、ハワイ大学ヒロ校のRichard GriffithsさんやHamiltonさんたちの研究グループから発表されました。研究グループによると、その正体は「重力レンズ」効果の影響を受けた約110億光年以上先の銀河なのだといいます。重力レンズ効果とは、遠くにある天体の像が手前にある天体の重力によって歪んで見える現象です。
「ハミルトンの天体」の場合、約70億光年以上先の銀河団に存在する大量のダークマター(暗黒物質)の重力が空間に生じさせた「波紋」の影響を受けたことで、地球からは偶然にも引き伸ばされた2つの像が鏡面対称のように見えているのだといいます。Griffithsさんはプールの底に見える光の模様を同じような種類の効果として例にあげて、「プールでは水面の波紋が部分的なレンズとして働き、底に届く太陽の光を曲がりくねったパターンに集中させます」と語っています。
また、数年間を費やして「ハミルトンの天体」の正体を明らかにした研究グループは、その過程において、少し離れたところに同じ銀河の別の像とみられる天体を見つけました。新たに見つかった像を分析した研究グループは、この銀河が星形成領域をともなう横を向けた棒渦巻銀河ではないかと考えています。
次の拡大画像では重力レンズ効果を受けた銀河の各部分に1~6の番号が振られていて、鏡面対称のような「ハミルトンの天体」(mirrored image)と、新たに見つかった像(single image)を見比べやすくなっています。研究グループは「ハミルトンの天体」の観測を通して、ダークマターの性質についての手がかりが得られることに期待を寄せています。
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Image Credit: LEAD AUTHOR: NASA, ESA, Richard E. Griffiths (UH Hilo); CO-AUTHOR: Jenny Wagner (ZAH); IMAGE PROCESSING: Joseph DePasquale (STScI)
Source: STScI
文/松村武宏